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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-33

「ブレたり、落ちたり、スライドしたり……なんなんだろうね、あの落ち着きのない変化球は……」
 さぁ、と誰もが首をかしげる。
「カットファストボール……じゃ、ないでしょうか?」
 そんな中、大和が口を開いた。ベンチの視線が、彼に集中する。その視線は、大和が口にしたボールの説明を求めていた。
「えっと……」
 口にした手前、大和は言うべき言葉を整理して、いつも持ち歩いている硬式ボールを取り出して握りの説明から始める。
「普通、ストレートは縫い目に指をきっちりとかけて投げるものなんですけど、これをこうやって……」
 そうして大和は、指の関節に載せていた縫い目を微妙にずらした握りに変えて、それを皆の前にかざした。
「このままストレートと同じように投げると、当然、回転は違ってきますから、空気抵抗の受け方も変わってくるので微妙な変化が起こるんです。メジャーリーグでは、よく使われていた変化球ですけど、最近は日本のプロ野球でも投げる選手が増えていますね」
「へぇ……」
 大和の知識に、皆は舌を巻く。なるほど、とメンバーの中では特に野球に精通している京子も、その説明に納得し何度も頷いていた。
(ただ……)
 しかし大和はある不審に、眉をひそませていた。京子の話では、ストレートの球筋から急にブレたり落ちたりしたという。確かにカットファストボールは、そういう変化を見せる球ではあるが、ほとんどストレートに近い握りということもあって、変化そのものはカーブやスライダー、フォークボールに比べれば遥かに少なくなるはずだ。
(………)
 マウンド上の松永を見やる。注意して監察してみたその右手が、さりげなく尻ポケットの中に収められ、中でなにやら蠢いていた。
(やっぱり、“スピッツ・ボール”か)
 大和は確信した。
 スピッツ・ボールとは、ある因子を加えてボールの回転を変えることだ。そして、それは、不測の事態が起きない限りは、意図的にしなければ不可能なボールでもある。なにしろ、スピッツ・ボールを生むためには、指にグリス(軟膏)を塗りつけたり、ヤスリでボールを傷つけて、普段ならあり得ない摩擦を生じさせるなどの“細工”をしなければならないからだ。
 つまり、スピッツ・ボールとは、不正な投球方法なのだ。そのスピッツ・ボールが自然に発露するとすれば、例えば雨が降って指が濡れてしまった時や、マメが破れ、そこから滲んだ血が何らかの作用を及ぼした時以外は、ほとんどあり得ない。そして、晴天であり、マメが潰れた様子も見せないことを思えば、マウンド上の松永が、不正な手段でスピッツ・ボールを投げていることは、一層、明らかになる。
「ストライク! ツー!!」
 桜子の天才的な運動能力も、その変化球にはついていけないようで、早くも追い込まれていた。
「あの……」
「? どないした、草薙君?」
 大和が意を決し、龍介に“代打に出して欲しい”と頼もうとしたところで……

 バシィ!

「さ、桜子!!」
 京子の軽い叫びが聞こえ、顔を向き合わせていた大和と龍介はグラウンドに視線を戻した。
「………」
 見れば、桜子が両手で顔面を押さえている。
「あ、あたったんか!?」
「あてられたのよ!」
 京子が吼えるようにして、松永を睨みつけた。そのまま掴みかかりそうな勢いで、ベンチを飛び出そうとする京子。
「タイム、タイム!」
 そんな京子を留めたのは、“あてられた”はずの桜子の声だった。
「うーん……」
 右手で鼻元を抑えながら、桜子はベンチに戻ってくる。その指の間から、なにか赤い筋が見えた。
「鼻血、出ちゃった」
「だ、大丈夫?」
 すぐに大和が、タオルを桜子に手渡す。彼の個人的なタオルを、血で汚すことに躊躇した桜子だったが、“構わない”と言ってくれた彼に甘え、無造作に鼻元をぬぐった。


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