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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-3

 女子バレーボール界の至宝・蓬莱桜子、無念のアキレス腱断裂―――。
 蓬莱桜子の復帰は絶望的、女子バレー界の未来はまたしても闇―――。
 新聞紙面と一部の雑誌をにぎわせたあの日から既に1年以上が経過していた。世間の流れはこのところ特に早く、初めから“バレー界の至宝・蓬莱桜子”の存在などなかったかのように色々なことが足早に過ぎ去っている。
「♪♪♪」
 もっとも、その当事者が気にしていないことだ。鼻歌交じりに病院を元気に闊歩するその姿を見て、悲劇の主人公となった過去を探ることなど誰にも出来ないだろう。
「こんにちは!」
「あら、桜子ちゃん。今日も元気ね」
「久美さんも、綺麗だよ!」
「あらやだ。そういうセリフは、男の人に言われたいけど」
 顔見知りとなった看護師長とのやりとりも、病院内に陽気を与えてくれる。アキレス腱を断裂してから、この病院と桜子との縁が深くなっていくにつれて、不思議なことにその場の空気は明るくなった気がしている、斉木久美だった。
「今日もいい天気ですね」
「桜子ちゃんは、“晴れ女”だから」
「あははっ」
 断裂したアキレス腱とは一生つきあっていく必要がある。だから桜子は、月に一度は通院をして、状態を見てもらっているのだ。そして不思議なことに、彼女が病院にやってくる日は、きまって天気がとても良い。
「屋上なんか、気持ちいいかも……あたし、行ってくる!」
「今日は風が強いから。気をつけてね」
「うん!」
 その天気の源になっているかのように晴れやかな笑顔のまま、桜子はアキレス腱を断裂した過去を微塵も感じさせないほど軽妙なステップで、階段を昇っていった。
 あっという間に屋上に続く扉の前にたどりつく。桜子は、その扉の向こうに広がっているであろう青い空に心を躍らせながら、両手でそれを思い切り開け放した。
「!」
 ひゅぅ、と風が桜子に覆い被さってくる。その圧力に抗えず、瞼を一瞬だけ閉じた桜子。
「ふわぁ、ホントに風がつよーい」
 そんな自然現象の出迎えにもはしゃぎながら、薄目を開けた。
「あれ?」
 取り戻した視界が捉えた、人影。
(いけない!)
 フェンスにもたれ掛るようにして、気弱げにその背が丸まった瞬間、桜子は痛めている足首も気にする素振りを見せず、脱兎の如く駆け出していた。



『また“草薙”に戻ることになっちゃった』
 渋い表情をしている母親の様子に、大和は我が身の現実を知る。
『ごめんね、大和。いつも、あなたには……』
(母さんが、謝ることはないのにさ)
 大和はため息をつく。両親の不仲の原因は、どう考えても自分にある。
 もっと、“父親”に馴染んでいれば、彼も家の外に別の女性を作ることもなかったかもしれない。母親と再婚をしたときから既に、その“父親”は家を空けることは多かったが、家族の団欒を得られていたならば、家庭により深い安息を求めたはずだ。
 また、中学生であり時期的に難しい年頃にあった自分と、どう接していけばいいのかわからず、戸惑うばかりだったのだろう。
 結局、父子の溝がそのまま家庭の溝になり、新しい絆を誓ったはずの家族の姿は霧散した。救いだったのは、その“父親”はあくまで大和に対し無関心であり続けるだけで、いわゆる暴力的な行為は一切しなかったことだ。そのあたりは、思慮分別のある人物だった。
 “父親”の不倫が発覚してすぐに、大和の母親は離婚という形で全てを清算した。我が子に馴染もうとしない再婚相手への愛情は、既に失われてしまっていたのだろう。
「はぁ……」
 やるせないため息を、大和はこぼす。そして、三角巾で吊るされていた自分の右腕の、肘の部分に目をやった。
「………」
 内側に刻まれた縫い痕。欠けた軟骨は既に除去され、普段生活する分には痛みも違和感も、何もなくなっている。
「………」
 大和は青い空を見上げてみた。何処までも遠く続く、広い空。
 その空の色に想いを馳せると、まだ自分の名字が“陸奥(むつ)”だった一昨年と昨年の、鮮やかすぎる青空の記憶が蘇ってきた…。


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