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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-165

「………」
 一方で、ベンチに戻るなり桜子は申し訳なさを含んだ表情で大和のとなりに来た。グラウンドにいたときの凛々しさが嘘のように、今の桜子は小さくなっている。
「ご、ごめんなさい」
「? どうして?」
「生意気なこと、言っちゃって……」
 “しっかり抑えて”という言葉は、今思えば、かなり大和を突き放したものだったのではないかと、不安を覚えたのだ。野球の実績と実力で言えば、大和は桜子にとって雲上の存在である。それなのに、だ。
「頼もしかったよ」
「え?」
 だが、もちろん大和はそれを気になどしていない。むしろ、その叱咤が自分を強く励ましてくれたと思っている。
「“姉御”って、呼びたくなった」
「そ、それは、やめてよぉ……」
「ははっ……」
 薄く笑みを浮かべつつ、タオルで何度となく汗を拭い、大和は大きく息をついた。その吐息には、明らかな疲労感が滲んでいる。
 それを見逃さなかったのは、監督のエレナであった。
「クサナギさん、次の回からキャプテンさんとCHANGEしてください」
 不意の言葉を受け止めた大和は、それでも沈黙を保つ。
「LOOK SO TIRED,AREN’T YOU?」
「………」
 “疲れているのでは?”という彼女の見方は、このうえもなく正しい。
 久しぶりの実戦での投球は、古傷を抱える肘よりもむしろ下半身に大きな負担を与えていた。実は今も、膝が少し笑っている。前の打席で、なんでもないところで躓いてしまったのも、足回りが疲労によって安定しなかったからだ。
「サクラ」
 エレナは、捕手として大和の具合をどう見ているか、それを確かめるために桜子へ視線を向けた。エレナの蒼い瞳に見つめられ、一瞬押し黙ってしまった桜子だったが、しかし、ややあって頷きをエレナへ返した。捕手としての回答を求められているのなら、その務めを全うしなければならないだろう。
「大和くんの球は、勢いを失っています。……替え時だと、あたしは思います」
 それが相手の自尊を刺激するようなことだったとしても、だ。
(完投は、できなかったな……)
 もっとも、自分の体力が限界に近くなっていると自覚しているのは本人だ。7回は相手の下位打線が相手であり、味方の好守備にも助けられ1点で凌いだが、上位打線とまともにぶつかる8回の表は、そう簡単にはいかないだろう。継投の策を施すには、今を以って他にはないと誰もが思うはずだ。
「OK?」
「はい」
「THANKS」
 少しだけ執着は見せたが、大和は素直に従ってくれた。
「ヤマト」
 意外に負けん気の強いところを垣間見たエレナは、その側によって肩に手をかける。“クサナギさん”から、“ヤマト”に突然呼び方が変わったことは、気づかなかった。
「NICE PITCH.……PRESENT FOR YOU」
「え?」

 Chu♪

「!!??」
 双葉大ナインの目が、全て点になっていた。なぜなら、大和の頬に軽くエレナがキスを贈ったからである。
「“ガンバッタ賞”です。おつりは、いりませんよ」
「ガ、ガンバッタ賞……」
 いつのまにそんなものが? 目を点にしたまま、中には口を茫然と開け広げているメンバーもいる中で、エレナだけがにこやかである。
「ガンバッタ人には、KISSのごほうびをあげる……シキタリでございます」
 言うやエレナは、固まってしまっている桜子の方を向くなり、彼女の頬にもキスをした。この試合は、息の合ったバッテリーが生み出すリズムの良さによって、双葉大の優位を作り上げたものだと彼女は考えているからだ。


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