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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-120

「寝ちゃった……?」
 独り言にしては、やけに声が大きい。多分、彼女は自分が起きていることを知っているのだろう。
「いや、寝てない……」
 あくまで冷静に。大和は自分に言い聞かせるように、素っ気ない色を込めて桜子に言葉を返した。
「そうだよね……寝られないよね……」
「………」
 桜子は正直だ。陽気で、元気で、活発なところばかりが目立つ彼女だが、“自殺をするのでは?”と勘違いして自分をフェンスから引きはがし、泣きながらその行為を諌めていたところに、彼女の繊細な優しさがあることを大和は既に見ている。
 入れ替え戦の試合を一緒に見に行った時もそうだ。他人の試合であるにも関わらず、まるで自分のことのようにその推移に一喜一憂していた。
 同じ大学を受けると知った時、とても眩い笑顔を見せてくれた。あの顔も、忘れられない。
 キャッチボールの時、嬉しそうにボールを受け止めて…。素振りを教えていた時、真剣な眼差しで自分を見てくれて……。
 そんな表情が豊かな桜子を、大和は好きになっていた。
「ねえ……」
 耳を塞ぎたい。これ以上、彼女の吐息にも似た甘い声を聞いていると、自分が自分でなくなってしまう。彼女によせる好意が暴発して、自分を止められなくなってしまう…。
「そっちにいっても、いいかな?」
「―――――」
 一瞬、大和の魂魄は世界から消えた。
 魂が体の中から剥がされて、黄泉の入り口まで飛んで、地球を七回転半まわって、それが逆戻りをするような形でようやく意識が返ってきた。本気で、そう思った。

 ごそ……

「ちょ、ちょっ、ちょ―――………」
 答えを返す前に、背後の闇に動きが生じた。桜子が夜具を払って身を起こし、ベッドから立ち上がったのだろう。見ていない、見えていないはずなのに、大和の視界にはそのビジョンがはっきりと浮かんでいる。
「草薙、くん……」
 桜子の吐息が、はっきりと聞こえてくる。大和が体を埋めている布団の端が持ち上がり、躊躇いもないように、暖かいものがするりと潜りこんで来た。
 桜子が、同じ布団の中に身を入れてきたのだ。
「あたし、あなたが好き……」
「!」
 意識の混濁が巻き起こした渦に飲み込まれ、狼狽が沸点に達しようとした大和の混乱は、背中に語りかけられた桜子の一言によって頂点にたどり着き、不思議なことに、瞬く間に沈静していった。
「こんな時に、って思うかもしれないけど……草薙くんのことが、あたし、好きなの……」

 きゅ……

「あ……」
 不意に体を覆う拘束感。桜子が大和の心を掴まえるようにして、抱き締めてきたのだ。
「ほ、蓬莱、さん……」
「ごめん……でも、止まらないの……」
「………」
「好きなの……あなたが……草薙くんのことが、好きなの……」
 本当に消えてしまいそうなほど繊細な声である。気がつけば、大和の心に清涼なものが降りてきていた。
「蓬莱さん」
 か細く、消えてしまいそうな声で…。それでも確かに思いを紡いでくれた桜子。
 その気持ちに応える言葉を、大和はひとつしか持っていない。
「………」
 大和は、拘束を解くように身を捩らせると、体を反転させて桜子と対面できる体勢になった。
 大事な言葉は、相手の目を見て伝えたい。


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