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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-119

「あ、あはは……」
 やはり寝巻きに着替え、ベッドの上で困ったように照れている桜子を、とてもではないが直視できない。女の子の部屋に入るのは葵との最後の逢瀬の時以来だが、抱いている緊張感はその比ではなかった。
「まあ、あたしはあまり気にしないから……」
 もともとプライバシーの薄い中で生活してきた桜子ではある。
 それなりに部屋も綺麗にしているから、大和を迎え入れても何ら問題はないつもりだ。近いうちに、家にも遊びに来てもらおうかと考えていたから、特に最近は掃除に気を使ってきた。
「は、はは……」
 だが、夜をまたぐとなるとこれは一大事だ。確かに、桜子は一段高いベッドの上にいて、自分は床に布かれた布団で眠ることになるわけだが、ひとつ屋根の下であるばかりか、ひとつ部屋の中で年頃の男女が一夜を過ごすのだ。
 間違いが起こる可能性を……否定できるだろうか?
(ど、どういうことなんだ!? こ、これが、許されていいのか!?)
 相変わらず大和の脳髄は沸騰している。女性の体を識っていても、まだまだ垢抜けない大和であり、こういう状況を承認してしまった龍介と由梨の存念を、とてもではないが理解できなかった。
 それを受け入れた桜子にも、大和は惑うばかりだ。普通なら、夜を明かすのに同じ年頃の男の子を同じ部屋に入れることなど、許せるものではないだろう。
(蓬莱さんは、何を思って……)
 よほどに自分を信頼しているのか、そういう対象として自分のことを見ていないのか。桜子の意識が前者にあるなら大和としてはそれに必死に応えるつもりだが、後者にあるとしたらあまりにも寂しい。
 なぜなら、大和は桜子のことを意識しているからだ。異性に対するそれに、確実に変化している気持ちを彼は、無意識の中で抱いている。
 端的に言えば、“好きになっている”のだ。蓬莱桜子のことを…。
(はっ……)
 気がつけば、艶かしい方に考えが向かっていた。大和は頭を強く振ってそういうなまぐさみのあるものを振り払う。
「ね、寝ようか?」
 決して、いやらしいものではない。生理学的に、“睡眠いたしましょう”と提案したのだ。色んな考えを封じ込めるには、もはや寝るしかないだろう。
「そうだね。じゃ、電気、消すね……」
「あ、ああ」
 ぱちり、と乾いた音が響いて、部屋に闇が下りた。
 布団にそそくさと潜り込み、何とか睡魔を引き出そうとする大和。

 どきっ、どきっ、どきっ……

 だが、聞こえてくる自分の動悸が耳障りで、眠ることに集中が出来ない。
(羊よ羊……この世で一番美しいのは……)
 大和君、君は間違っている。羊に綺麗どころを聞いて、眠れるはずがないだろう? 数を数えなさい、数を。
(執事がいっぴき、執事がにひき……)
 数えるのは“羊”だ“羊”。それに執事なら、“ひとり”“ふたり”だろう。
(ね、寝られるかぁ! 同じ部屋で、隣に、好きな女の子がいて!! 寝られるもんかッ!!!)
 大和は、ついに己の中にある感情を認めた。同時に、湧き上がってくるような黒い欲望の存在も。
(くわぁ……)
 だが、それに屈服はしない。男の欲望を剥き出しにして好意を寄せている桜子を襲ったとしたら、全ての信頼は崩れ去るだろうし、何より自分で自分を許せなくなる。
(つ、躑躅がいっぴき、躑躅がにひき……)
 “躑躅(つつじ)”とは、ツツジ科の常緑または落葉低木のことである。春・夏の頃に、赤ないしは白い花を咲かせる植物だ。決して“匹”で数えるものではない。
(うおぉぉ……ぬあぁぁ……)
 大和の思考は、完全に困惑の極みにあるといっていい。無理もないだろう。もしも自分が同じ状況になったとしたら、オスの本能を抑えきる自信など毛頭ない。
「草薙くん……」

 どきぃ!

 柔らかい響きが、耳の奥に入ってきた。それは、背中を向けているはずの闇の中から奏でられた、美しい鈴の音にも似た響きである。その音色を聞いた大和は、このうえないほどの心臓の高鳴りに支配された。


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