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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ7-3

三日後。
今日は全員で練習の日だ。

「よお瞬、練習してきたか」
『……俺は元々ギター弾けんだよ。それより灰慈はどうなんだ?』
「とりあえず弾き方は覚えたで。あとは曲通りに弾く練習やな」
『なかなか早いな』
「せやろ、けっこう楽しいわ」
灰慈はベースを弾く真似をしながらケラケラ笑った。
『……青空は?』
「先行ってるって」
『……そっか』

個室に入ると、もう全員が揃っていた。
「遅いわよー!」
なぜか由貴が上機嫌だ。
「……由貴ちゃんどうしたん?」
「青空くんがすごいの!三日でマスターしてるのよ」
由貴はニコニコしながら言った。
「マスターだなんて…あの曲を一通り叩けるようになっただけだよ」
『……青空、本気で練習しやがったな』
「由貴ちゃんが絡むと最強やな」
瞬と灰慈は遠い目で見ているのだった。


そして練習が始まった。
「灰慈くんもけっこう弾けるようになったんだね」
悦乃がタンバリンをシャカシャカ鳴らしながら笑った。
「やるやろ」
「……わあ、瞬くん様になってるね!」
「えぇっ!」
灰慈がフフンと笑ったときには、すでに悦乃は瞬の方を見ているのだった。
「……やっぱミスコンがええわ…」
灰慈はそう呟きながらもう一度ベースを弾き始めた。



「瞬くん」
『……なんだよ、いきなり真面目な顔になって』
練習の帰り、瞬は悦乃を自宅まで送り届けていた。
最近は瞬が悦乃のお目付役を任され、いつも時間が合うときは家まで送り届けていた。
『もう家の前だぞ?』
悦乃は複雑な顔をしている。
「………あの、今日は……上がっていかない?」
『…………は?』
瞬のリアクションに悦乃は顔を赤くした。
「いや、あの、前に倒れたときもお世話になったし…お母さんが一度挨拶したいって言ってたし…いつも家の前じゃ悪いから…お茶でもって…」
『なぁにパニクってんだよ』
瞬は苦笑いした。
「……だから…」
『じゃあ、お邪魔すっかな』
「ほんと?」
『……ああ』
悦乃がニコニコと微笑み始めた。
「じゃあ、上がって」
『……お邪魔します』
「こっち」
「……ああ」
悦乃は瞬を奥の部屋へと促した。
辺りを少し見回す。
玄関もそれに続く廊下も、美しいと言えるほど整理整頓、掃除が行き届いている。
全体的に白基調で、特に壁は染み一つなく真っ白だ。何だかとても清々しい気分になる。

『……綺麗だな』
思わず口に出してしまう。
「お母さんが綺麗好きだから……入って」
悦乃はドアを開けながら言った。
『おう…………え?』
入るとそこはリビングで、悦乃の母親らしき人がいた。
「……あら、あなたが瞬くん?」
悦乃の母親は、悦乃に似た柔らかい微笑みを見せた。
『……あ、はい、初めまして』
挨拶しながらじろっと悦乃を見る。
すると悦乃は複雑な顔をして言った。
「ごめん、お母さんが顔見たいって言うから」
『……ああ』
「瞬くん、大きくなったわね」
『え?』
「ちょっと!お母さん!」
またこれだ。
忘れていたと思えばまたすぐに引き戻されてしまう。
悦乃の母は俺のことを知っている。しかも昔からのようだ。
心臓の鼓動が早くなる。


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