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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-93

 ………キン!!

「おおぉぉぉぉぉぉ!!」
 甘く入った2球目を痛打した打球は、高々と舞い上がる。外野は、少しだけ追いかけてすぐに脚をとめた。
 外野席の芝生にボールが飛び込む本塁打。それを見届けると、晶はゆっくりとした走りにかえてベースを一周した。
 ホームを踏み、ベンチに戻る。真っ先に迎えてくれたのは、亮の笑顔だった。
「すごいな、サイクルだ」
「ありがと」
 ちなみに亮の5打数5安打2本塁打7打点も、物凄いことである。
「あとは、パーフェクトだな」
「ふーん、プレッシャーをかけるつもりなんだ?」
「微妙な心理条件でのコントロールを身につけたら、晶は無敵になるからな」
 コントロールに弱点を持つ晶が、今日は一切の投球ミスもなくここまできている。だからこそ、より高い場所へ彼女を導くために、亮はあえて、明らかに点差のついた試合の中でも、重荷を課したかったのだ。
「いいわ……それじゃ、亮、勝負よ」
「な、なんだ?」
 それにひるむこともなく、晶がやけに気合の入った眼差しをむけてきたので、亮は少したじろいだ。
「パーフェクトをやったら、お願いをひとつ訊いてもらうからね」
 なんだ、そんなことか。亮は胸をなでおろす。
「わかった」
 何も考えず、亮は頷いていた。
 マウンドに立つ晶は、ロージンバックを手に塗りこめて相手と対峙する。
 亮の構えたコースはインコース。右打者の内角を突くように要求している。かなりぎりぎりのラインを通るから、ミスをすれば相手の身体にあたり、死球となって完全試合は泡と消える。
(………結構、いじわるだね)
 晶はふ、と笑みながら大きく振りかぶった。ダイナミックな投球フォームから繰り出される速球が、亮の構えたミットに寸分たがわず突き刺さる。
「ストライク!」
(すごいな)
 亮は晶の絶妙なコントロールに舌を巻いていた。
 櫻陽大学に敗れてから、弱点ともいえる乱れがちになる晶の制球力を安定させるため、基礎に返ってシャドウピッチングから繰り返してきた投球フォームを固める練習が功を奏したのだろうか。
 アウトコースに構える。サウスポーの場合、斜角の都合上、ストライクゾーンを通りにくい場所だ。
「ストライク!!」
 だが、今の晶には無用の話らしい。
 亮は内角高めを要求した。おそらく今の晶の球威ならば、相手打者はバットを振ることも出来ないだろう。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 そのような調子で晶は、残るイニングを全て三振で撫で斬りにし、事も無げに自身二度目の完全試合を達成したのであった。



「前の試合でもノーヒットノーランだから……18イニング安打を許していないのか」
 試合の後、すぐにささらぎへ戻ってきた面々は昼餉をご馳走になり、その後は自由時間となった。宿町でもあるから、町内にはちょっとした観光名所もある。
 部員たちがめいめいに町へ散っていく中、ささらぎに残り、ロビーのソファに腰をおろしていた亮は『晶ノート』に目を落としていた、そして、晶の投球を思い出し感嘆の息を漏らす。
 正直、空恐ろしい記録だ。考えてみれば、櫻陽大学戦との8,9回を加えて、29イニングも得点を許していない。
(これで4試合3勝1敗……)
 勝ち点に換算して、9。
 前期最後の試合となる星海大学との一戦は、正念場になるだろう。この大学、調子がよいらしくまだ負けを喫していない。確か、同じく3連勝の櫻陽大学とまだ試合をしていないはずだから、その結果も気になるところだ。


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