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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-47

「牛丼特盛玉2丁と並盛、お待たせしました」
 なんとも色気のない晩餐である。目の前に置かれた、妙に玉ねぎと脂身の多い牛丼並盛をみて長見はそう思う。
「ンー、きました。いただきますです〜♪」
 しかし、華はある。嬉しそうに牛丼特盛をかき込み始めたエレナの、なんとも無邪気な表情に思わず長見は微笑む。
「あ、そういや柴崎……」
「んー。エレナでいいですのに。そっちの方が慣れてますから、ぜひそう呼んでください」
「………」
 晶以外の女子を呼びつけにしたことなどなかったので、それが気恥ずかしかったから苗字で呼んだのだが。エレナは名前の方を呼んで欲しいと言う。
「エ、エレナは……」
 本人の許しを得ていると言うのに、どもってしまった。気を確かに、もう一度、言い直す長見。
「……エレナは高校どこだったんだ?」
「城南学園です。父……あ、いまの父ですよ。その父が、英語の講師をしてましたので」
 定年とやらで退職していますが、と聞かなくても付帯事項を言ってくれた。
「ナガミは、高校はどこだったのですか?」
「環高校」
「それじゃあ、お隣の県ですね。通いですか? ひとり暮らしですか?」
「部屋を借りてる。通えるほど、近くじゃねえから」
「わたしもそうです」
「?」
 腑に落ちない話ではある。今の父親が城南学園の講師だったと言うことは、そこに通うエレナも同じ住所のはず。だとしたら、わざわざ一人暮らしをする必要もないだろうに。
「大学生になったのだから、一人で生活してみなさいと、父が言ってくれました」
「へえ、そりゃまた」
 随分とリベラルな人である。英語講師と言っていたから留学経験もあるだろう。その見聞の広さと見識の豊かさが、養女とはいえ娘の一人暮らしを容認している理由なのか。
「ハイツ大崎に住んでます」
「な――――ッング!」
 わざわざ住んでいる場所まで言う無防備さはともかく、その名前に長見はとにかく驚いた。思わず、頬張っていた御飯を慌てて飲み込んでしまう。そして充分に咀嚼していなかったそれは、長見の喉に見事に引っかかっていた。
「ナガミ、大丈夫ですか!?」
 エレナがお茶を長見に手渡し、その背中を優しくさする。息苦しさの中に感じる暖かさは、エレナが持つ大らかな母性のものだろうか。――――いや、今はその気持ちよさに浸っているときではない。なんとか息を整えて、質したい言葉を音にする。
「……っんは! は、は、ハ、ハイツ大崎って……俺と同じじゃねえか!!」
「REALLY!?」
 エレナもまた、そのつぶらな瞳をまん丸に見開いて驚きを表現していた。ちなみに、最下層の一番日当たりの悪い109号室が、長見の部屋である。
「そうなんでしたかー! わたし、307号室にいますです」
「え」
 307…つまり、3階にある7番目の部屋。そこにエレナは住むという。なるほど、1階と3階では、その接点も繋がりにくかろう。
 しかし、長見はそれよりも聞きたいことがあった。
「そこって、確か、ファミリールームじゃなかったか?」
「はい。ですから、ひとりで住むには理不尽なまでにひろいです」
 少し、寂しげな顔のエレナ。
「わたしの父と、そこのブッケンを持っている社長さんとがニンジャ……ではなく、エンジャなのです。だから、カクヤスで部屋を借りたそうです」
「なるほど…」
 そのあたりに、娘に甘い父の姿が見えてくる。
「ナガミは、野球部なのですね」
 話が飛んだ。しかし、相変わらず無邪気なエレナの表情に、長見はそのことも気にならない。


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