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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-241

「!」
 またとない好機だ。それを逃さず長見は、振りにかかった。しかし……
(い、痛ッ!)
 不意に走ったわき腹の激痛に、スイングを途中で止めてしまった。

 こっ……

 だが、勢いを殺しきれなかったものか、止めたバットにボールは当たる。
「!」
 激痛に我を失っていた長見だが、その感触がバットに生まれた瞬間、一塁へ向かって駆け出していた。
 ボールは勢いを失ったまま、内野を転々としている。面白いように、投手と三塁手と遊撃手の丁度中間点に、ボールは転がっていた。

 ズキ、ズキ、ズキ……

 長見は必死に駆けた。一歩を踏み出すたびに込み上げてくる苦痛を抑えながら、懸命に脚を廻す。よせばいいのに、彼は一塁目掛けてヘッドスライディングを敢行していた。
「セーフ!」
 打球を処理した三塁手の林。素手でボールを掴み、それを一塁に向かって送球したが、そのときには既に長見の体は宙に浮いていた。
「………」
 内野安打である。今日の試合、二本目だ。彼の脚がどれだけ凄いものか、この試合では充分に発揮されている。
「大丈夫かよ、アイツ……」
 斉木は、打席に向かいながら一塁の様子を窺う。長見は既に起き上がり、ベンチのサインを確認しているようだ。その様子を見るに、異変は何も感じられない。
(大丈夫、なのかな……)
 斉木は自分もベンチに視線をやった。確認しなくても、出されるサインはもう決まっているだろう。

 コッ…

 送りバントをきっちり決めて、長見を二塁に進めた。
「よっしゃ! 久々のチャンスや! 晶ちゃん、頼んだで!」
 赤木が吼える。それを契機に盛り上がる、城二大ベンチ。
(いてぇ……)
 だが、そんなベンチと裏腹に、長見の苦痛はひどいものになっていた。右わき腹に手をやり、それを撫でさすって苦痛をやり過ごそうとする。しかし、その動きは何の効果も示すことはなく、長見は苦しさに息が詰まりそうだった。
「あ、あのキャプテン……」
「ん?」
 長見の様子に集中していた斉木は、ついに不安が口をついて出た。
「長見の奴、なんか様子が変なんですけど……」
「WHAT?」
 エレナがその声に反応し、身を乗り出すようにして長見のいる二塁ベースを窺う。
「………」
 視線が、あった。彼は慌てたように拳を突き上げて、気合の入ったポーズを送る。
 それは、ベンチにいた誰もの目に入った。
「いつもどおりのようだが?」
「そう、ですね。気のせい、なのかな……」
 感じていた不安が霞んでしまうように、ベース上の長見は元気である。

 キィン!

「おっ!」
 そんなやり取りがあったことなど露も知らない晶のスイングが、京子のストレートを叩いていた。
 その打球は、京子の足元を抜けようとした。しかし、咄嗟に差し出した京子のスパイクの先に蹴られる形で、ボールは勢い良く三塁方向へ飛ぶ。
「!」
 虚を突かれたように、長見は三塁へ向かって走り出した。歯を食いしばって、苦痛を押さえ込んだまま……。
「スーさん!」
「あいよっ!」
 ボールを抑えた林が、一塁は無理だと判断し、三塁のベースカバーに入っていた遊撃手の鈴木に送球する。打撃では力自慢の鈴木だが、遊撃手というポジションを任されているだけあって、グラブ捌きと脚捌きは器用である。送られてきたボールを掴むと、長見に飛びかかるようにしてタッチを試みた。


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