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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-229

「ボール!」
 さすがにボール球を二球続けたので、相手も振ってこない。もともとリーチの長いエレナにとって、内角低めは窮屈になるコースでもあるから、これは予想していた結果である。
(イヤなところを……)
 晶に聞いたとおり、コントロールの良い投手である。球質の重さも、想像以上だ。同じくインコースを狙ってきた三球目を、どんづまりのファウルにしてしまったエレナ。
 球の速さは晶に及ばずとも、相当の好投手であるのはよくわかる。
「ボール!」
 それに加えて、亮を空振りに仕留めたフォークまである。ワンバウンドするほどに切れ味の鋭いフォークボールを見送ったのは、ボール球と見切ったのではなく、手が出なかったからだ。
(………)
 タイムを取った。どうにも、リズムが悪い。相手の間合いで打席に入っている自分を感じる。これでは打ち取られるのも、時間の問題だ。
「こらっ、らしくねえぞ!」
 滑り止めを両手に塗していたところ、ベンチから叱咤が跳んだ。
 それが誰の声かは、確認するまでもない。その主は、打席に入っているエレナ以上に、二人の対決を力んで見ていた長見である。
 思いのほか、グランド内に響いたその声は、皆の視線を長見に注がせた。期せずして、その渦中に放り込まれた感じの長見は、身をすくめるようにベンチに座り込む。
「フフ」
 その様を見て、エレナは頬が緩んだ。押されていたことで萎縮していた気持ちが、ふわりとした何かに包まれる。
 それは、いい意味での“余裕”だ。
「バッター、ラップ!」
「YES」
 審判の催促に律儀に応えて、エレナは打席に戻った。
(よし)
 この打席は、山を張ることにした。相手の球種は今のところふたつ。最初の打席でそれらを見切ることは難しい。それならば、そのどちらかに狙いを絞って、自分のスイングをすることが相手へのプレッシャーにもなるだろう。
 ざ、と京子が振りかぶる。エレナはグリップを引き絞るように手首のバネを利かせ、構えた。
「!」
 アウトコースのストレート。エレナは思い切り踏み込んで、その球を叩きに行く。彼女の柔らかい筋肉のひねりが生み出したパワーが、そのままバットの先端まで伝わって、球質の重い京子のストレートにぶつかった。
 がっ、と力のはじける音を残し、打球は左中間(センターとライトの間)に飛ぶ。コースは違ったが、狙いどおりの直球に、エレナは力負けしなかった。
「行ったか!?」
 なだらかな弧を描いたその打球は、オーバーフェンスを期待できないまでも、外野の間を抜くには充分な球足の速さである。城二大の面々は、そのつもりで行方を追いかけた。
 しかし―――。
「アウト!」
 中堅手の二ノ宮が、ランニングキャッチで悠々と処理していた。
 塁審の手が高々と上がっており、それを確認したエレナは、二塁手前で走る速度を緩める。
「やられたか」
 二ノ宮が捕球した位置を確認しながら、亮は呟いていた。力で打ち抜いた打球は確かに鋭いものがあったが、それが相手の守備範囲にあったのでは意味を成さない。
「SMARTなキャッチャーです」
 戻ってきたエレナも嘆息を交える。直球を狙ったのは間違いではなかったが、それこそが相手捕手の読みであったと知ってのことだ。


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