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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-179

第8話 「決 戦!!」(前編)



『………

「大丈夫だ! まだ3点も差があるんだからな!」
 甲子園のマウンドに集まった陣幕学園の野手陣に檄を飛ばす伝令の二ノ宮。
「亮、いいリードを頼むぞ! 香坂を盛り立ててやるんだ!」
「はい!」
 事故によって右目の視力を失うという、野球選手として絶望的なアクシデントを跳ね返し、このチームをまとめあげてきた主将のことを、亮は心の底から尊敬している。
「みんな! まだまだ“甲子園の熱”ってやつを、堪能しようじゃないか、なあ!!」
 応! と野手のレギュラーたちが二ノ宮の訓示に気合を乗せた言葉を返した。
「木戸、まかせたから」
「香坂さん……」
 好投を繰り返し、試合を重ねるたびにプロ野球のスカウトから好評価を受けるようになった左腕エース・香坂の言葉に、亮は力強く頷いた。さすがに連投の疲れから、ストレートは勢いを無くしているが、落差のある得意のカーブはまだまだ健在である。
 二ノ宮がベンチに戻り、野手陣はそれぞれの持ち場に散った。
 亮はスコアボードを見た。そこには、既に終了した夏の甲子園大会準決勝・第1試合の結果と、この試合の得点経過が映し出されていた。
 得点は10−7。亮たち陣幕学園が、順当に勝ち上がってきた強豪の京稜高校を相手にリードしている。しかし、中盤まで10−0と圧倒していた相手に、6回に3点、7回に4点を奪われ、信じられないほど猛烈な追い上げを喰っていた。
 エースの香坂は連投による疲労で傍目にも体が重そうに見え、それを心配した監督はこの試合の先発に控え投手の城島を起用していた。
 甲子園初登板となる城島だったが、地方予選では完封もしている力のある投手だ。5回まで相手打線に好機らしい好機をつくらせず、力投していた。
 しかし、勝ちを意識したのか6回に突然制球を乱し連打を浴びて3失点を喫した。7回にも同じような展開で満塁としてしまい、そこで香坂にスイッチしたのだが、そのエース左腕も、代わり端のストレートを叩かれ走者一掃の三塁打を浴びて、さらにスクイズによってこの走者も返されて四点を失ってしまった。
「ストライク! バッターアウト!!」
 しかし二ノ宮の喝が効いたのか、後続を打ち取ってなんとか3点差を守る。8回の相手の攻撃も、塁上を賑わせはしたが、0をスコアボートに刻みつけてやった。
 残るイニングは9回のみ。この回を抑えれば、初出場でありながら陣幕学園は、明日の決勝戦へ駒を進めることが出来る。無名だった大会当初のことを思えば、それは球史に残る快挙だ。
(みんな、がんばって……)
 途中登板であるにも関わらず、香坂は見るからに疲労の色が濃い。ベンチでスコアをつけているマネージャーの高峰千里は、胸にへばりつく嫌な予感を必死で追い払おうと、祈るようにその手を握り締めていた。
「!」

 どおぉぉぉぉぉ…

 甲子園が、地の底から沸いた。9回の裏に、またしても大きな山場がやってきたからだ。
 香坂は最初の打者から三振を奪ったものの、その後、四球と安打をそれぞれ許して塁を全て埋めてしまった。続く打者は、今大会最高のスラッガーとうたわれている京稜高校の主砲・松島。この甲子園でも、大会記録に迫る4本のアーチをかけている。
 陣幕学園の応援席は、言い知れぬ不安に静まり返っていた。


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