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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-113

「ボール!」
 外れた。
 二球目、落とした上体から放たれた球は低いところから浮き上がってくる。
(きた!)
 晶はこの“日の出ボール”を狙っていた。脇をしっかりと締めて、コンパクトに腰を回転させる。最短距離で、バットとボールを衝突させるためだ。

 キン!

「!」
 投球体勢を終えない渚の足元に、痛烈な打球が飛ぶ。渚はグラブを出そうとするが、無理な体勢のため届くはずもなく、それは二遊間を抜けてセンター前へと転がっていった。
 久しぶりに、爽快なヒットである。
「ナイスバッティング!」
 ベンチが沸いた。なにしろ、無死のランナーだ。
 続く1番打者の長見が打席に入る。玲子からの指示は、特にない。
「………」
 それなら、と長見は自分から晶にサインを出す。メットのひさしをバットで軽く叩くこと2回。
「!」
 それはバントのサイン。
 初球から長見はボールを一塁線に転がした。あわよくば、自分も生き残ろうかというセーフティ気味のバント。
「アウト!」
 だが、さすがに守備のチーム。その連携は見事なもので、二塁に晶を進めることは出来たが、俊足がウリの打者走者・長見は寸でのところでアウトにされた。
「いいぞ長見、ナイスバント」
「うーん。斉木のようには、いかねえなあ」
「贅沢いうなよ」
 その斉木が打席に向かう。彼は今日、2打席目にバント安打を放っていた。最初の打席でボール球に手を出し三振に倒れたので、球筋をよく見ようと考えてのバントが、意外にもいいところに転がったのだ。
「………」
 さすがに相手も警戒している。心持ち、守備位置が前に寄っていた。
 斉木がベンチを見る。玲子のサインは、“とにかく転がすように”。斉木は、ひとつ深呼吸をして白い枠線の中に足を踏み入れた。
「ストライク!」
 初球から“日の出ボール”。高めギリギリのところを突いてきた。
 二球目を待つ。マウンド上の渚が、しきりに晶を牽制しているが、結局そのまま斉木に向かって投球を始めた。
「ストライク!! ツー!」
 外角のストレート。追い込まれた。
(まずいな……)
 このままでは、何もできない。
(よし)
 ここはやはり、自分の特性を生かすしかないだろう。
 三球目は、インコースに。見極めたところ、ボールの判定。四球目も似たようなところに来たが、やはりボールだった。
 2ストライク2ボール。何かが動くのは、この並行カウントのときが多い。
 渚が、上体を沈めたときに、晶がスタートを切った。
「!」
 単独スチール。しかし、投球モーションを始めていた渚は、捕手に向かって投げるよりほかはない。

 こっ…

 斉木は、中途半端なスピードで外角に来たそのストレートをバントした。追い込まれていたから、相手もバントの予測を頭から外したのだろう。ファウルになれば、その時点でアウトになるからだ。
 だが、器用さではチームでも群を抜く斉木にとって、バントは得意中の得意。外角に投げられたストレートを三塁線に転がすことは、造作もないことだった。
 三塁手が、それを素手で掴みそのまま一塁へ投げようとする。だが、捕手の山内がそれを止めた。
 既に、三塁に達していた晶が、隙あらば本塁を狙おうと伺っていたからだ。それに、見事なまでに死んでいた打球だったため、一塁も間に合わない。無理な送球をして、それが暴投にでもなれば、労せず相手に得点を許してしまう。
「おお!」
 一死一・三塁。絶好の状態を作り上げ、クリーンアップへと打席は廻ってきた。




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