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ロッカーの中の秘密の恋
【教師 官能小説】

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ドアの向こうの彼女-3

「学会用の原稿もう少しであがるんですけど、去年とったデータの数字にもう少し言及してみようかと思ってるんです」
これが、セックス終わった後の女のセリフだ。しつこいようだが、夏目はセックスが終わると冷たい。ひとしきりぐたりとしていたうちはまだ可愛らしいものだった。だけど、体が落ち着くといそいそと服を着始め、次の学会の話。
「にゃんこ」
「はい」
「見てよ、シーツ、べとべと」
僕はまだ素っ裸でベッドにいた。体調としてはもう一回くらいできそうな感じだった。顔を赤らめてシーツを引っぺがしに寄ってきた彼女を絡めとってキスをする。もう一度、ブラウスのボタンを外そうとしたら、手に遮られた。
「もう帰らなきゃいけないんです」
「どうして?」
「茂木さんと話してきます」
彼女の口から茂木の名前を聞くと相変わらず変な焦りを感じる。まだ、話しつけてなかったのか。
「ぼくとセックスした後に茂木に会うの?」
「だから嫌だっていったんです」
そう言ってため息をつく彼女は淡白な態度の中に癖になるようななまめかしさを持っていて、それが後を引いてしょうがない。ぼくの手を胸の前できゅっと一度抱きこんで離すと、じゃぁ、また、と彼女は身を翻して廊下に続く寝室のドアを開けて出て行った。一瞬ぼんやりと彼女の足音を聞いていた。しかしベッドから転がり落ちるように駆け出し、玄関でパンプスに足を入れる背中に投げかける。
「話終わったら、もう一度ここによって」
振り返った彼女が不思議そうな顔をする。
「頼む」
うなずいて、分かりました、と出て行った。最後にスカートの皺を伸ばしたしぐさまで、自分のためじゃないと思うと馬鹿らしいほど妬けた。
何もせずに待つのは楽じゃない。時間をさっさとやり過ごしてしまうにはアルコールが一番だ。適当に服をまとって、キッチンからウィスキーを出し少々強引に流し込む。
余裕はどこへ?寝室から素っ裸で玄関まで飛び出す中年。みっともなくて笑いがこみ上げる。未だに、夏目が何を考えているのか分からない。もともと、口数の多い女ではない。しゃべらせればパリッと物をいうけれど、こっちが促さないと黙っていることが多い。ひとりでじっと考えている。何を考えているんだろう、そう思ったが最後、絡めとられていったのはぼくの方だ。なんやかんや下らないことを言ってはからかい、しょうもない用事を手伝わせ、それでも、彼女が研究室から出たとたんに僕の想像はまったく及ばなくなってしまう。それが夏目だ、と今までは納得していた。だけど、茂木とそれをまんざらでもなく受け止める夏目を見ていられなかった。自分の知らない部分を茂木に持っていかれるのはごめんだ、と衝動的に奪い取った。彼女が必ず戻ってくるのだとまだ確信が持てない。おかげでこうしてアルコールがよく進む。

どれくらいしたのか玄関の開く音がする。リビングの床で死体のようになって眠っていた。ひたひたと足音が近づいてそれでも身を起こすのも目を開けるのも億劫だ。ドアが開き、廊下の光が真っ暗な部屋に差し込んだ。
「ただいま」
僕の傍に寄ってきて覗き込んでいる気配がする。返事をしなかった。彼女は一度リビングを出てまた戻ってきた。ふわりとかけらるブランケット。いつものように、上からそっと撫でられる。
「おかえり」ウィスキーで喉がやけたのかひどい声だった。
「さっきから起きてたでしょう」
身を起こして胡坐をかいて彼女を引き寄せた。彼女は抵抗しなかった。
「茂木、なんて?」
「分かった、って。これまでどおりの関係でって」
時計を見ると彼女が出て行ってからおおよそ三時間くらい経っていた。床に直接置いたボトルは殆ど空になっている。
「その割には遅いな」
「お詫びに一杯奢って帰ってきたんです」
顔を首元にうずめらるのが心地よくて頭の後ろを撫でる。甘い匂い。細い体。木目のこまかい肌。殺伐とした家の中にある唯一の温かみのような、そんな恋しさ。
「にゃんこ、脱いでよ」
「今?」
僕の目を覗きこんで、ちょっと驚いた風だった。
「今」
彼女は黙って僕の目の前でブラウスの釦を外し始めた。後ろの本棚にもたれてそれを眺める。伸ばした僕の足をまたいで膝立ちの危なっかしさと、釦を外す手つきが妙にいやらしかった。ブラウスを脱ぎ落としたところで彼女が目で問う。


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