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恋におちて
【教師 官能小説】

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恋におちて-1-1

牧本加奈――教師生活五年目、生徒のよき理解者であり続けようと心掛けてきたけれど、こいつだけはなんだか苦手だ。
話し掛けても無視、授業中は上の空。注意すると、何も言わず鋭い目で睨みつけてくる。心を開いてほしいんだけど、なかなか攻略法が見つからない。
入学当時はそうでもなかった気がするんだけど。

「牧本は、教師なら男女問わず誰にでもそうらしいですね。友達には明るい普通の女の子みたいですけど…私達が話し掛けると、顔付きがガラリと変わりますよね。」
不精ひげを生やした顎を撫でながら苦笑いでそう語ってくれたのは、牧本のいる二年A組の担任をやっている小泉先生。
「授業態度が悪くても、なまじ成績がいいから注意しにくいし…。笑ってると可愛いんですけどねぇ、美人がもったいないよなぁ」

色白で鼻がすっと高く、黒目がちな澄んだ目。そう、確かに牧本は若手女優にいそうな、透明感のある綺麗な顔立ちをしてる。
笑った顔が可愛い、かぁ…そういえば見たことないなぁ。


「三木にもダメなの?先生ぽくないのに!三木は今まで生徒の人望集めてきたのに、加奈にだけは嫌われて悔しいんでしょ」
放課後、職員室に課題のノートを持ってきた桜井は、大きな口で笑いながらそう言った。
「おい、先生ぐらいつけろよ。あと敬語使え」
人望というか、こうやって馴れ馴れしく接してくる奴が多い…なめられてるのかな。
俺が言ったことなんて全然気にせず桜井は続けた。
「高校入学してからなんだよね、加奈の先生嫌い。普段はちょー明るいんだよ。よく喋るし、美人なのにサバサバしてるから男女かまわず引き寄せるみたい」
「なんで嫌いか、理由聞いたことはある?」
「あるけどぉ…」


――大人は平気で嘘をつくから、かぁ。
牧本は、理由を聞いてきた桜井にそう答えたそうだ。二人は中学から相当仲が良く、一緒にいる時間も多いみたいだが、詳しくは教えてくれないらしい。
何か過去に嫌なめに遭ったのだろうか。

そんな事考えながら駅に向かっていると、悩みの種の牧本が一人で公園のベンチに座ってた。
駅に向かう大通りから少し外れた所にある公園は大きいけど閑散としていて、まだそれほど遅い時間ではないのに、遊ぶ子供たちの姿はなく、牧本が一人だけ、ぽつんとそこにいた。
「牧本!」
急に呼ばれて驚いた感じで顔を上げた牧本は、声の主が俺だと知り表情を曇らせた。
「何してるの?帰らないのか?」
彼女は無言。
「ここは人通りが少なくて静かで、考えごとするのにちょうどいいよな。でも暗くなってきたら危ないよ」
彼女は無言。
「悩み事あるなら、俺でよければ相談のるよ」
彼女は無言。
あまりしつこいと逆効果なのはわかっていたけれど、俺はなんだかこいつの声が聞きたくて続けた。
「なんか言えよー。愛想振りまけとは言わないけど、胸の内少しでも明かしてくれたっていいじゃん」
彼女は無言…かと思ったら地面ばかり睨んでた顔をこっちに向けて立ち上がり、一言「さよなら」とだけ言って公園を出て行った。
その時の俺はきっと、恋人にビンタされて振られた男がするような情けない顔をしていたと思う。


桜井の言ったように、俺は確かに悔しかった。牧本だけは俺に笑ってくれない。俺は彼女の笑顔をどうしても見たいと意地になっていた。
家に帰った俺はなんかモヤモヤしたまま早めに眠りについた。


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