月が、僕を。-1
月は曇り空のせいで、隠れてしまっていた。
はぁ……。
窓を眺めて息を吐き捨てると、ベットの方を振り返る。
僕の目の前には、さっきまで一緒に騒いでた女の子が。
寝てる……。
……ごくり、と僕は息を飲んだ。
起きてよ!早く、起きてってば……
「ん……どしたの?」
あ、起きた。
「……あ、えっとね……」
――簡単に僕はこうなった訳を話した。
車で僕は彼女を送る予定だったんだけど、彼女は車の中で寝ちゃった。
いや、騒いでた、っても、車の中で2、3時間ダベってただけなんですが。
仕方ないから僕のマンションに連れてきた、って訳――
「あー。そうだったんだ。」
半分気だるそうに僕に答える。
そうだったんだ、じゃなくて、僕には今日は"大切な"日なんですけど。
「……じゃあ、お休み」
「寝るなって!、早く、かえって!」
「……なんでよ」
ぅー。やめてよ、僕の枕に抱きついてそんな目しないでよ。
「……それは、いえないんだけど、とにかく」
……とにかく、ヤバいんだって。
「…ぇー」
「えー、じゃないっ」
ん……女の子の……甘い、匂いが、する……。
いい匂い…。
――ドクンッ――
ぁ……なんか胸の、鼓動が……強く。
「 逃 げ ろ っ ! 」
僕は張り裂けそうな声で叫んだ。
あまりここには人がいない、……というかそういうところにしておいた。
人に気かれにくい場所を。
多分、僕ら以外の人には聞かれてない、と思う。
「ぇ、ねぇ……何いってんの?。震えてるよっ?」
そうだ、月が……雲から顔を出したから。
自分でも良く分かってる。冷たい水のプールからあがった時のように、細かくガクガクと、震えてるのが。
必死に自分の顔を、無表情にさせてたのが分かった。
なぜか、笑いがこみ上げてくる。
「……早くしないと、めちゃくちゃに、なるからっ」
消え入りそうな、小さな、とても弱い声で、僕は言った。
……ああ、そうだ。
別に月は、見えなくても良いんだ。
丸い月の出す、何かを受けると、僕は変わっていく。
「ね、ねえ、ちょっと」
……だから
「逃げろって言ってんだよっ!」
僕は手のひらを壁に打ち付けた。鈍い音がして、壁に少し、ヒビが入る。
「ひっ……」
おびえるのなんて、当たり前だよね。
だって、普通バットとか使わなきゃ、ヒビなんて入らないもん。
僕は華奢なほうだし。
お願い……僕の目の前から、姿を消してっ。
「ね……お願い……だからさ……」
僕はゆっくりと、彼女の座ってる、ベットの上に歩み寄った。
彼女も何をされるか、分かってたのかな。
様子の違う僕を、恐れたのか、ゆっくりと、後ずさる。
「……逃げないと、僕、君になにするか、分からないから」
僕はベットに上がり、彼女の両頬に手を当てていた。
……彼女は、何もしてこない。
僕はぐっ、と強く、強引なキスをした
「んんっ……」
息できないぐらい、唇を押し付け、そしてそこから舌を差込み、
彼女の口の中を味わう。なぜか彼女も、抵抗してこない
……見開かれた彼女の目を見ていると、とても満たされてく……。
なんか、体の中の鍵が外れてく気がした。
そんな事を感じながら舌を絡めてると、ぞわっ、と、僕の体が波立った。