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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-19

「なんか言ってよ……」

それは心の悲鳴。あたしの心の叫び声。

「澪さん……俺、あなたが好きです」

真っ直ぐに、片時も瞳を逸らさずに亘はあたしを見つめる。

「バ、バッカじゃないの?笑えない冗談だわ。あんたもかなり酔っ払ってるんじゃない?」
「はい。俺、酔ってます。だけど俺には澪さんしか見えてません……」

亘の真剣な眼差しに負けて、あたしの視線は彷徨(さまよ)ってしまう。

「最初は…みんな、そうやって優しく言うわ……だけど…最後には……重たい女に……なるのよ……用済みな…女に……」
「俺は違います!」

真っ直ぐに向けられる想いを痛い程に感じる。その想いが閉ざした心に少しずつ亀裂を入れていくみたいだった。

「あたしのコト…何も知らない……癖に…どうしてそんな……断言…できるのよ……」
「じゃあ、教えて下さい。澪さんを全部……」

膝の上に置いたままの手が小刻みに震える。その上に暖かく大きな手の平が、そっと重ねられた。まるで、あのテラスの時と正反対のように……

(怖い……怖いのよ。もう、一人ぼっちは嫌……だけど、人を信じるのが怖いの……)

その言葉を口に出来たなら……その胸に飛び込んでしまえたならどんなに楽だろう、どんなに救われるだろう。だけど、心を開くのが怖い。今までの自分を壊してしまったら、あたしはもう一人でいることが出来なくなってしまう。気力を振り絞り、ふらつく足元を必死に抑えてあたしは立ち上がった。

「……帰るわ……」
「澪さん!」

玄関に向かう途中で一瞬よろけたあたしに手を差し延べた亘を制して見据える。

「亘はあたしを抱きたいの?」
「そんな!俺は……」
「あたしは抱いて欲しかったわ。残念ね……」
「俺は……澪さんが望むなら……」

亘の弱気な言い方が神経を逆撫でる。酔いのせいか、抑えが効かなくなっているあたしは堪らずに声を荒げた。

「あたしのコトなんかどうでもいい!!あんたがどうしたいか聞いてるの!!」


あれ?ちょっと待って……


「今は職場じゃないでしょ!?なんでいちいちあたしの顔色を伺うの?どうしてあたしに合わせるだけなのよ!!」


これって……


「彼氏になりたいなら本気を見せてよ!自分の本音をぶつけてくれなくちゃ、あんたがわかんない!!これじゃまるであたしの一人相撲だわ!」


そうか……

アイツが言いたかったのはこれだったのね?アイツも不安だったんだ。


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