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『欠片(かけら)……』
【大人 恋愛小説】

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『欠片(かけら)……』-18

「こうやって俺が身体を求めれば、あなたは満足するんでしょう?所詮、男なんてそんなモンだと心の中で馬鹿にしながら……」

つかの間あたしを見つめる表情はどこか寂しげで、ゆっくりと身体を起こして座り直すと亘は煙草を取り出して火を付けた。しばらく無言で吸い続け、そして煙草を揉み消してあたしを見ると再び口を開く。

「男を蔑(さげす)んで自分を傷つけて、その癖、淋しがり屋で……可哀相な女(ひと)ですね澪さんは……」

あたし、同情されているの?
このあたしが?

亘の台詞に心の中で何かが弾けた。ベッドから立ち上がったあたしの瞳から、悔しさと恥ずかしさが入り交じった感情が溢れて流れ落ちていく。

「あんたに……あんたに何がわかるのよ!!人の心に勝手に入り込まないでよ。あたしはなりたい自分になったの!後悔なんてしてないし、同情なんか御免だわ!!」

だけど、それを認める訳にはいかない。あの日から今日までの自分を否定してしまったら、あたしには何も残らなくなってしまうから……

「だったらなんでいつも溜息ついてるんだよ!!なりたい自分になったんだろ?それなら、いつも淋しそうな顔する訳は何なんだよ!!」
「え?」

激しい言葉とともに逞しい腕があたしを抱き寄せた。息苦しい程の力強さがあたしを包み、痛いぐらいに抱き締められていく……

「俺、ずっとあなたを見てました。真剣な横顔やたまに見せる笑顔が大好きで……だけど、少し前に気付いたんです。側に誰もいない時にふっと淋しそうな顔で溜息つくのを。近くに人がいない時だけに見せる表情……それに気付いてから、俺はあなたから目が離せなくなったんです」

彼の熱い想いがあたしを包む。忘れかけていた感情……愛しいという感情が身体中に拡がって、あたしを押し流そうとしている。このまますべてを委ねてしまえたなら……そんなコトすら考えた。だけど、あたしは震える声で答える。

「亘、離して……あたしは男に振り回されるのは嫌なの……もうあんな思いはしたくない……」

言葉の代わりに大きな手でそっとあたしの頭を撫でながら、微かに身体を震わせて亘は言った。

「俺はそんなコトしません。澪さん、俺は本気であなたを……」

あたしは強引に亘から離れると、その口を手の平で押さえる。

「その先は言わないで……全部嘘に聞こえてしまうから」

人前で……男の前で弱いところを見せるなんて嫌だったはずなのに、亘と一夜を過ごしてから……今、彼の前で感情を爆発させてしまったあたしの中で何かが変わり始めていた。

そのままお酒の力を借りてあたしは愚痴を零す。感情の限界に来ていたあたしは、せきを切ったように言葉を続けた。言葉は感情を煽り立て、感情は言葉を加速させる。そしてついに……

「それに……それにね……あたしは…用済み…な……女…なのよ……」

溢れてしまった。止められない想いが流れ出してしまう。人前で泣くまいと決めていたのに、今のあたしはこんなにも脆くなっていた。


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