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お手紙
【片思い 恋愛小説】

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お手紙A-5

「…何?」
当惑気味に松田君が言う。「仏様…」
「?」
「仏様に似てる、って言われたこと、ないですか?」 「え…!?」
…って何聞いてんの自分!明らかに混乱している松田君。ひゃああ!すいません!
と…
「…ふ、ふ、」
松田君が変な風に唇を歪ませた。 (…怒った?)
「あはははは!」
はじける明るい笑い声。女子校じゃ絶対聞くことのない、かすれて低く、でもドキドキしてくる声で、笑った。
「面白いこときくね。俺ってもう悟ってるみたいに見えてたの?」
「え、なんか弥勒菩薩みたいなオーラ出てますよ。気付きません?」
「うわ、俺無意識に悟っちゃったよ!やべぇ〜」
(え…?なんか普通に会話しちゃってる…)
すごい、あたし…。
「私は、どうですか?」
「ん?」
「電車の中で、どんなオーラ出てました?」
松田君は考え込むように視線を泳がせた。
「そうだなあ…誰かと話してるところ見たことないから、かなり真面目そうに見えたかな…」
(やっぱり真面目キャラなんですね…)少しショック。泳がせた視線をふと私に向けて、松田君は微笑んだ。
「でも今話したら思ってた感じと違う感じしたかな。なんか面白いわ。」
これは、お世辞?本音?
生まれてきて初めて言われました、面白いなんて。
「あ、ありがとう。あたし初めてそんなこと言われました。」
「そうなの?」
「なんかあたし話すのとか苦手だし、かなり口下手なんです。」
「自分でそう言えるなら、本当は違うんじゃん?あと、敬語使わないでいいよ」 「は、うん。」
…あたし、本当にすごい。なんだかどんどん喋ってる。松田君と話をするの、楽しい。私はさっきまで緊張してたのが嘘みたいに、松田君といろんな話をした。部活の話、学校の話、クラスの話、中学校時代の話…。そして、話せば話すほど、私は松田君という男の子にひかれていった。
「俺男子校でしょ、野郎しかいないとやっぱり変なキャラできてくるみたいなんだけど、女子校もそんなもんなの?」
「うーん、どうだろ…。彼氏いる子はメイクとかこっそり学校にしてきたりして怒られたりするなあ。でも、そうだね、基本的に変な子しかいないね。」
脳裏にいろんな友達の顔が浮かぶ。
「ふふ、必ず早弁してる子、授業中寝て寝言言う子、めちゃくちゃ頭いいのに芸人目指してる子。皆キャラ可笑しすぎるけど、皆いい子ばっかり。」
「学校楽しい?」
「面倒くさいし課題も多いけど、すっごく楽しい。」松田君はコーヒーを啜る。「女子校は華あっていいよね〜。俺も一回行ってみたいなあ」
「でも男子校はかっこいい人多そう。」
「まぁかっこいい奴もいるけど、ナルも多いし。俺とかは普通な感じだよ。」
「松田君はかっこいいよ!そこらへんにいる、格好だけかっこいい人より、ずっと、優しいし、かっこいいし…そうでなきゃこんなこと…」
そこまで言って、私はしまった、と思った。これではまるで、松田君が好きですと言っているようなものではないか。
松田君はコーヒーにむせて、乾いた咳を何回かした。「大丈夫?」
なんとか平静を装って聞く。松田君は少し笑って頷いた。動揺してむせたのだろうか。
「…ありがとう。」
何に対してのお礼なのかよく分からなかったが、私は途端に彼に対して申し訳ない気持ちになった。
私達はついさっきまで一度も話したこともない、赤の他人だったのだ。いや、今だって別に友達でも、恋人という訳でもない。
すぐに、冷えるような寂しさと悲しみが押し寄せてきた。松田君と私の間に立ちはだかる、壁を不意に感じた。
松田君は私が黙りこんだせいか、気まずそうな顔をして壁にかけてある絵を眺めている。
どうしよう、何か話さなきゃ。でも、何を話したらいいの?あたしってなんでマイナス思考なの?


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