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お手紙
【片思い 恋愛小説】

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お手紙A-4

…時計を見ると、今は5時30分。もう学校を出ないと遅刻してしまう。
すうっと息を吸い、私は決心を固めた。
「…久美、私そろそろ行ってきます。」
少し上ずった声が出たけど、もう心は揺らがない。
「頑張って。」
それだけ言うと、久美は親指をぐっとたてた。
「ありがと。松田マスターになって帰ってくるよ!」笑顔でそう言い、私は教室をでた。
 松田君と待ち合わせをしたのは、私の女子校から自転車で30分くらいの、小さい赤レンガの喫茶店。
とてもさびれたというか、物寂しい店で、私と同年代の若い子は全く立ち寄らない。知り合いから私と会っている姿を見られたくない、という気持ちが松田君にもあったのだろう。

カラン カラン

古めかしい洋風のドアを開けると、喫茶店おなじみのベルが鳴る。
店内を見回すと、お客は新聞を読んでいるおじいさん一人だけ…。あとは店長らしき、眼鏡をかけたおばあさんがぼんやりと虚空を眺めている。
松田君は、まだ来ていない…。
なぜだか少しほっとして、私は奥の方の、丸テーブルのある席に座った。
携帯を取り出して、松田君にメールをする。

『先に待ってますね』

…送信。

ふと顔をあげると、さっきまでカウンターでぼんやりしていたおばあさんが、私を見下ろしていた。
(…いつの間に…) 少しぎょっとすると、おばあさんはゆっくりと私に話し掛けてきた。
「あんた、どこの学生さん?」
「…市内のM女子高です」
「何がよろしいでしょうか」「紅茶を下さい」
おばあさんは頷き、ゆっくりとした動作でカウンターに戻った。

と…

カラン カラン

ベルが鳴った。

店の中を見回し、携帯を取り出して画面を見ている。そして、ぱっと顔をあげて……

夢じゃないかと思った。
いつもの学ラン。凜とした姿勢。
松田君が、私の方にやってくる。

「ごめん、遅れた」

低くてかすれた声。

「い、いいよ、大丈夫です」か、か、顔を上げられない。恐れ多い。

久美、あたし、今すぐ消えちゃいたいよ…。
松田君は私の向かいの席に座った。私といえば……
もう、全身心臓ってくらいに体中がバクバク。やばい、汗かいてきた。どうしよ、指先震える。
一言も喋らず真っ赤になって俯く私に困惑したのか、松田君は、
「なんか頼むね」
と言うとメニューを見始めた。
恐る恐る顔をあげ、彼の顔を見る。
こんなに間近で見るのは初めてだ。
すっきりと引き締まった顔。筆で一線書いたみたいにきれいな眉。優しそうな目の形。
(なんだか、仏様みたい)
松田君を褒めてるのかどうか微妙な感想だけれど、一言で言うと、まさに仏様のような顔だ。
(…優しくて、包んでくれるみたいな雰囲気、のせいもあるのかな。好きになった理由は…)
ぼんやりそんなことを考えていると、さすがに見すぎてしまったのか、松田君がメニューから顔をあげた。目が合う。
やっぱり穏やかさを宿した、静かな目。
(こんな目をしている人だったんだ…)
初めて知った。


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