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君の名前
【純愛 恋愛小説】

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聖夜に降る雪-4

  □□□□□

クリスマス。私はこの手紙をあなたに渡そうと思っています。
食事のあとにしようかどうしようか悩んでいます。きっとあなたは驚くし、ひょっとするとブルーになったり私を嫌いになってしまうかもしれないから。
待ち合わせには遅れそう。今からそんな予感がするよ。なんでって?ううん。やっぱり怖いから、かな。テツにとってはいつものクリスマスでも私にとっては大切な、きっと人生の分岐点になる夜だと思うからさ。当日は雪かな、それとも雨かな。どうせならたくさん降るといいね。たっくさん。
今ね、この手紙の目の前にはテツへのクリスマスプレゼントが置いてあります。中身はね…。どうしよう。プレゼントを渡した後にこれを渡すから書いてもいいよね?中身はオルゴール。
少し古い曲なんだけど、ちょっと有名なグループが歌っていた曲なんだ。今でも時々、有線とかで流れているけどね。「angel song」っていうの。知ってるかな?結構スケール大きな曲でね、これに刺激されて生まれた小説もあるくらいなのよ。
テツも気に入ってくれると嬉しいな。どうか気に入ってくれますように。
そういえば、テツは私に何か用意してくれたかな。去年はクマのぬいぐるみだったわよね?大きくて…というかあれは大きすぎ。あなたより大きくて、待ち合わせに来ていたのがクマかと思ったくらいに。びっくりしたな。でも宝物だよ。すごい大切。
時々一緒にも寝るよ。いい年して、とか言わないでね。あったかいんだもの。
なんかさ、テツと一緒にいる気がしてさ。
今年はどんなのかな。今から楽しみです。

                   □□□□□

今夜のためと、僕は自分なりに努力した。
デートコースはあえて僕とキョウコが好みそうなルートを辿り、レストランだってそこそこいいところを選択した。決してこれまでの特別な日々が手抜きだったわけではない。
けれど、そんなたくさんの記念日よりも今夜はさらに特別な夜だったのだ。
ゆったりと流れる音楽と輝く店内に、キョウコは目を丸くして感嘆の声をあげた。
「ここ。高いんじゃないの?」
「かまわないよ」
高いどころの話ではない。こんなにぷんぱつした時など他にはないんじゃないだろう
か。
「イタリア料理。コースを楽しもうぜ」
「そんなに無理しなくてもいいのに」
口ではそう言って笑っていたけれど、まんざらじゃないことがその表情からもうかがえる。
席についた僕らは、そこからしばらくの間いろんな話をしながら食事を楽しんだ。
キョウコはいつもよりもアルコールを口にし、いつもよりも少しだけ多く喋った。彼女を見ながら、僕らが歩んできた軌跡を考える。きっとどこにでもいる恋人同様、つづれ折られた憂いと喜びに時に涙し、またある時には身をよじりながらここまできたのだ。そう。何も変わらない。僕らは、どこにでもある関係に置かれている。好きだ。そう思った。感情なんて理屈じゃない。
キョウコが白い歯を見せながら僕の話に笑い声をたてた。瞳が、潤んでいる。
不意に、本当にふとした拍子にこぼれた一言だった。
「結婚しないか」
時が止まる。キョウコが笑顔のままかたまった。
言ってから、しまったと悪態付く。せっかくタイミングをあれこれ考えていたのに。
今日まで馬鹿みたいに頭の中で練習してきたというのに。
泡を食いながらも、僕は彼女に焦っているのを悟られたくなくてさらに言葉を重ねた。
「ずっと、考えていたんだ。このこと」
キョウコはなおもかたまったまま、僕を見返していた。
まるでフリーズしたパソコンのディスプレイみたいだ。
僕は手にしていたナイフとフォークを置き、覚悟を決めた。キョウコの顔を真正面から見つめて、ありったけの気持ちを込めて伝える。
「結婚しよう」
僕らの間に、沈黙が生まれた。多分、その間も音楽は流れていたし他の客の笑い声や話し声も店内の空気に混じっていたに違いない。だけど僕の耳には何も届かなかった。呆然となっている彼女の声さえも聞こえない。結局、僕らが店を出るまで彼女は何も言わなかった。いいとも悪いとも、両方どちらも。
外はいよいよ本降りで、辺りは一面白く雪で遮られていた。からん、と背中で店の鐘の音を聞きながら歩き出す。相変わらずキョウコは無言で、僕の隣りを歩いている。
数時間前とは打って変わって気まずい雰囲気だ。どうする。不安に、狂いそうだ。
やっぱりまだ早かったのだろうか。告白するよりももっと軽く話題にして話し合った方がよかったのだろうか。
それとも僕とはそんな関係ではなかったのか。恋人と結婚相手とは違う、と考える人もいるくらいだ。ありえない話じゃない。


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