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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*15*-2

「えっ!?やだ、ちょっと音羽?どうしたの」
好美の裏返った声がする。あたしは自分の顔を手の覆って、その場にしゃがみこんだ。
「…かった」
「音羽?聞こえない」
声を出そうにも震えてなかなか旨く話せない。あたしは一度深呼吸をし、目元を手の甲で拭ってから、心配そうに見つめるみんなに顔を向けた。
「良かった…って…」
みんな同じような反応をした。不思議そうに首を傾げ、そして楽しそうに「何でぇ?」と言う。
「だって、あたし、前に今みたくみんなに囲まれたことあるでしょ?そん時のみんなの顔は般若並に怖かったのに、今は同じ矢上の話だけど笑ってんだもん」
当時のみんなの顔がぽんぽんと脳裏に浮かんでは消えていく。あたしはその顔があまりにも可笑しくて思い出し笑いをしてしまった。
「何笑ってんの。あんたさらっと失礼なこと言いやがって」
呆れ顔の好美があたしの頬をつねる。
「でも確かに…」
好美の後ろで鮎子がぽつりと呟いた。視線が鮎子に集中する。すると鮎子は一人一人に視線を送っていき
「そうかもっ」
と吹き出した。
「返してもらえればそれでいいのよ」
永子が腕を組んで笑う。
「ウチが買ってあげた財布、使わないからって返ってきたし。ウチが使っちゃお!」
晴香はブランドの財布を胸にしっかりと抱き、おどけてみせた。
「文化祭はさすがに瑞樹もくるっしょ!」
好美も叫ぶ。
みんなが矢上を受け入れてくれた。
何だかクラスが一つにまとまってきた気がする。こういう気持ちは初めてだ。思っていたよりもずっと『団結』とか『友達』っていいもんだと思った。こいつらと同じクラスで本当に良かった。
お互いを思い合って、認め合って、許し合える仲間がいる喜びをあたしは一生忘れないと思う。
本番も絶対成功させてやる。みんなで、矢上も含めたクラス全員で笑って「終わった」って言ってやる。
…ところで、好美はいつになったらあたしの頬を離してくれるんだろうか?


こうしてあたしたちの金曜日は慌ただしく始まり、文化祭の最終準備で慌ただしく終了した。
矢上のことはまだ心配だけど、クラスの女子全員の家に行ける元気と体力はあるらしいので幾分か気持ちは軽くなった。ただ一つ疑問なのは、なぜ矢上はみんなの家を知っていたのかということ。…考えだすと限りが無いので、それは気付かなかったことにしよう。
あたしたちは夜八時にすべての最終チェックを終え、樋口が三三七拍子をとり、喫茶店の成功を祝ってお茶で乾杯をし、そのまま解散となった。
ただ、あたしは教室の窓に『細工』をしてから帰ったが…。


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