投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

H.S.D
【学園物 恋愛小説】

H.S.Dの最初へ H.S.D 44 H.S.D 46 H.S.Dの最後へ

H.S.D*15*-1

金曜日…。矢上は今日も休みなのだろう。
そう思いながら教室の扉をガラリと開け、俯きながら「おはよ」と呟いたときだった。
「おぉ〜とぉ〜わぁ〜っ!」
ドドドドドッと音を立てて迫りくる女子たちのビッグウェイブにあたしは圧倒され、二三歩後ろに下がり逃げようとしたが、振り返った瞬間、そこは壁だったらしくあたしは鼻と額を思い切りぶつけた。
「ッギャ…な!なななな何!?」
鼻を押さえながら恐る恐る振り向くと、ものすごい近くにたくさんの顔が縁日のおめんのように並んでいた。
「ヒェッ…」
目眩がしそうだ。ズラーっと並ぶ怪しく笑う顔に酔ってしまいそう。その恐ろしい光景に、あたしは声も出せなくなってしまった。
「さすが音羽だね」
あたしの目の前にいる好美がニタニタした口元でそう言った。
「…ぇ、は?」
「あんたならやってくれると思ってたっ」
このウキウキな好美の口調…。確実に語尾にハートマークが付いている。この気持ち悪さはあたしに精神的ダメージを与えたので、法で裁かれる権利があると思うのだけど。
「だから何を…」
「フフッ。音羽を実行委員にして正解だったという喜びを、あたしたちは噛み締めてんの。ねぇー!」
刹那、あたしはビクゥッと飛び上がった。出来るならば今すぐ、この人間が原材料の鳥カゴから抜け出したい。
なぜなら、好美が「ねぇー!」と言った瞬間、たっくさんの首は上下運動をし、四方八方からから「そう」「そう」「そう」という声がやまびこのごとく聞こえてきたからだ。
その異様な光景は、絶対に夢に出てくる。もちろん、悪夢として。
「何なのっ!何かあったのっ?」
「昨日、矢上が家に来たの」
右上から響子の声がした。ドクンと一回、大きく心臓が鳴った。
「本当に?」
あたしは響子の方に振り返った。とたんに響子が驚いたように目を見開く。どうやら、あたしは相当真剣な顔をしていたらしい。
「あ、いや…その、何しに?」
「あのねぇ、15万持って『ありがとうございました』って言ってた!」


―トクン…


あたしは響子の言葉を頭の中で繰り返した。
すると、今度は左にいる美幸が口を開いた。
「美幸のとこにも来たんだよ」


―トクントクン…


「『借金返済しに来ました』って。美幸はお金貸してただけだったらしい」
にっこり微笑む美幸。
あたしはゆっくりテンポを早める心臓を止めることが出来なかった。そのテンポが何となく心地いい。
「ほ、本当?本当に矢上が?」
二人は一回、大きく頷いた。
「あたしのとこにも」
「うちにも来たよ」
「あたしんちにも!」
「あたしも」
「うちにもぉ」
所々から、いや、全員からそんな声が聞こえてきた。あたしはふと思い出した。矢上に送ってもらった日、あたしが矢上に言った言葉。


『借りたものはいつか必ず返しな』


目を瞑ると、その時頷いた矢上の笑顔がはっきりと見える。
ずっと見ていると、なぜだろう。胸が一杯になり、鼻の奥がつんと痛んできた。それと同時に目頭が熱くなり、じんわりと溢れてくるものがある。


H.S.Dの最初へ H.S.D 44 H.S.D 46 H.S.Dの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前