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淫魔戦記 未緒&直人
【ファンタジー 官能小説】

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淫魔戦記 未緒&直人 外伝 〜胎動〜-3

ややあって、未緒は結論を出した。
「……第三の選択は、不可能ですか?」
「何?」
「……私、このまま人間として死にたい」
「……それは、到底承諾できないな」
直人は肩をそびやかした。
「君が死ねばこの問題は確かに解決する。けど、それじゃあ後に残された者はどうすればいいんだい?」
「っ!」
痛い所を突かれ、未緒は返答に詰まる。
「母親は?友達は?恋人は?君を特別な存在と認識する人達に悲しみを味あわせる事を、君は望むのかい?」
「でも、こんな状態を一生続けるよりマシでしょう」
力ない未緒の言葉に、直人はため息をついた。
「……顔がセリフを裏切ってる。説得力ないよ」
「……!」
言われて初めて、未緒は目の端に盛り上がっているものに気がついた。
「あ……」
盛り上がっていたものが、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
その美しさに垣間見とれてから、直人は言った。
「僕は君を助けたい。そのためには、君が生きていなければ」
「生き、る……」
呟いた未緒の中で、何かが変わった。
何がどうとは言えないけれど、確実に何かが。
その変わった何かは、未緒に囁いた。
『この少年を信じなさい』と。
「……分かりました」
未緒の視線が、直人に向く。
「聞いて欲しいお願いが一つ、あります」
「何?」
「私、恋人がいないんです。生まれてから、ずっと」
セリフに隠された意味に、正直言って直人はひるんだ。
「……分かった」
だから、ただそれだけしか答えられなかった。


「でも何故、神保さんと……?」
ロープによる擦り傷が痛々しい手首をさすりながら、未緒は首をかしげた。
「それは僕の体のせいだ」
直人の答は、あっさりしている。
「普通は信じられないだろうけど、僕の魂の一部は神保家の開祖でできている。そのせいで僕の体は闇とか影とか、とかく悪く言われがちなものを抑制する力が強いんだ」
直人は自らの股間を指した。
「特に精液は生命を育てるための片翼を担っているから、その力がずば抜けて強い。君の力を抑制するのに一番向いてるんだ」
「抑制……」
未緒は呟き、直人を見た。
「私の力を、封印する事はできないんですか?」
「無理だ」
すがるような声に、返答は短い。
「何かに憑依されているというなら話は別だけどね。君の場合は父親がなにやらの人だから……遺伝子に、それがきっちり書き込まれてる。もう一人の自分を封印する事は、君の意識が消え去るのと同義語なんだ。僕は君を助けたいと思うけど、殺したいとは思わないよ」
「そう、ですか……」
未緒は呟き、うつむいた。
ややあって、顔を上げた未緒が問う。
「……もうひとつ。私の父がどういうものなのか、分かりませんか?」
どういう『存在(もの)』なのか。
今までの未緒の様子から当たりはつけてあるが、確実というわけではない。
直人は未緒に近付き、手を取った。
そして、手首の擦り傷に唇をつける。
「あ……」
擦り傷の上を、直人の舌が丁寧に這い始めた。
ぴりぴりした感覚が、手首から背筋にかけて走る。
「藤谷さん……あの状態になった時、どんな感じがした?」
舐める合間に、直人はそう質問してきた。
「どう、と言われても……」
未緒は眉を寄せて考え込む。
「……あ。服を何もかも脱ぎ捨てて、男なら誰彼構わず誘惑したくてたまらなくて……ここに来る前に母が苦労して服を着せていた事を、覚えてます」
「やはり、な」
もう片方の手に移りながら、直人は眉をしかめた。
「君の父親は、淫魔か、それに縁のある人物だ」
「淫……魔?」
聞き慣れない言葉に、未緒は首をかしげた。
「そう、淫魔。人類の歴史上に表立って登場するのは、旧約聖書のアダムとイヴより前の話だ」
手首から唇が離れると、未緒は目を丸くした。
擦り傷が癒えている。
「アダムの前妻、リリス。彼女はその淫乱さ故に離婚し、エデンを放逐された。放逐されたリリスはエデンから程近い海岸で数え切れないほどの悪魔と交わり、おびただしい数の子を産んだ。それらはリリンと呼ばれ、悪魔の一員として聖職者に夢で誘惑をかける存在となった」
「それが、私の父のルーツ……」
呟く未緒の目を、直人は覗き込んだ。


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