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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*13*-1

矢上は瞬き一つせず固まっている。あたしもじっと矢上の目を見つめる。そんなあたしたちを、アキちゃん改め明樹ちゃんが不思議そうにキョロキョロと交互に見ていた。
「何であたしがここにいるかって?」
あたしは間を空けた。いや、空けざるをえなかった。なぜなら、あたしがここにいる理由を馬鹿正直に言うのはものすごく勇気がいることだからだ。
ひくひくと頬が痙攣してきた時、ある人の顔が頭に浮かんだ。
「…好美のおじいちゃんのお見舞いに来たからっ!」
「…はぁ?」
矢上は呆れたような声を出す。
「嘘でしょ」
「本当です」
明樹ちゃんはそんな言い合いを目を大きくして見ていた。
「じゃあ、津川ちゃんのおじいちゃんの名前何?言える?」
「っく…」
矢上はふんっと鼻で笑った。確かにあたしは、好美のおじいちゃんの名前を知らない。ていうか、口からでまかせだから知らなくて当然だ。矢上も知らないはずなのに、あの人を舐めきった態度…まさか知っているのか?大体、矢上もそこまで執着しなくてもいいだろうに。あたしがここにいる理由ぐらい軽く流してくれてもいいじゃないか。
「はい、名前は!?」
矢上がせかす。
「津川……」
「津川?」
「津川…信佐ヱ門…?」
シンザエモンて。もっと考えてから言えば良かったと後悔の念にかられる。
好美のおじいちゃん、ごめんなさい。
「…当たり」
「うそ!?」
どうやら、たくさんある名前の中からのあたしの選択は間違ってなかったらしい。
矢上は悔しそうに頭を掻きながら歩いてきた。
「何で当てれんの…」
「ていうか、なんでアンタが知ってんの」
「何でって…なぁ、明樹」
明樹ちゃんがニッコリ微笑んだ。
「津川のおじいちゃんと明樹、仲良しなんです!」
そして、顔の横でピースサイン。
そんな明樹ちゃんを見て、あたしはずっと「どこかで会ったことある」と思っていた理由が分かった。


―プリクラ!


矢上の電池パックカバーの裏に貼られたプリクラの女の子。あれは明樹ちゃんだったのだ。あのプリクラと比べて、今の明樹ちゃんはかなり痩せていて分からなかったけれど、間違いない。矢上の大事な子って、明樹ちゃんだったんだ。
明樹ちゃんにヤキモチ焼いてたなんて馬鹿みたい。だけど、心のどこかでホッとしているのも事実だ。
ずっと渦巻いていたモヤモヤした感情が、無くなったように思えた。
「そう、なんだぁ…」
あたしがしみじみ呟くと明樹ちゃんは笑って頷いた。そして、矢上の方に顔を向ける。
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
矢上は車椅子の脇にしゃがんで、明樹ちゃんと同じぐらいの目線になった。
「お兄ちゃんの話にいつも出てくる女の子って音羽さんのことでしょ?」
矢上が「えっ!?」と短く声を上げた。ちなみにあたしは、ドックンと心臓が波打った。
「だって、ショートヘアで気が強くて、でも人を引き付ける魅力があってって…音羽さんじゃん」
「明樹っ…違うから!」
矢上は慌てて立ち上がり、明樹ちゃんの口を塞ごうとしたがもう遅い。明樹ちゃんは矢上の掌から抜け出し、楽しそうな顔をあたしに向けた。


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