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お見合い、それから戸惑い
【純愛 恋愛小説】

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お見合い、それから戸惑い-3

「遅れてすみません!」

心臓がばくんと飛び上がった。そろりと顔を上げる…。私の前には、グレイのスーツを綺麗に着こなした長身の男性が立っていた。その瞬間私の頭の中で、母から何度も何度も聞かされた言葉がフラッシュバックした。

『第一印象が大切よ』

―そうだ!きちんとした挨拶!いや、別に私はそんなお見合いなんて力入れて臨んでないんだけど…でも挨拶、そう挨拶!
私は思い切り勢い良く立ち上がる。椅子が後ろに押し出されるが、毛足の長い絨毯のせいで、思ったより椅子は動かなかった。

「っ…!?」

そして思ったより動かなかったのは椅子だけでなく、私の黒いバックストラップのピンヒールも…だった。足は動かず上半身だけが、がくんと前へ。バランスは崩れ、手は空を彷徨う。首筋がヒヤリとするけどもう遅い…。

「大丈夫ですか!?」

―あれ?
空を彷徨っていた手は確かに何かを掴み取っていた。彼の腕を。そして彼の手は私を。
途端にたまらなく恥ずかしくなり、私はばっと離れ、ぱふんと椅子に座った。
―なんだかドラマみたい…。でもこんなの思うこと自体が10歳上の男の人から見たら子供っぽいんだろうな…。
ちらっと見ると、彼は椅子に掛けて私に微笑んだ。
「なんだかドラマみたいですね。」

―あ、同じ事…。
そういった彼の笑顔は、マシュマロのようにふわふわで甘く、私の中に溶け込んでいった。



 後から何度考えても、あの時にぽんと恋に落ちたんだと思う。軽やかに深く落ちたんだろう。

私達はお互い恋愛に対してひどく臆病で、甘い言葉など囁き合う事など無かったけれど、それでもお互いがお互いを大切にしているのはよくわかった。




 出会ってからもう2年が経っているんだな…。そういえば私達は、私が卒業するとすぐに結婚した。まるで当たり前の事のようだった。具体的なプロポーズの言葉さえも無かった気がする。でも私はこの人と結婚したいと思えたし、とても幸せだった。


そう、あの時は確かに幸せだったはずなのに…。


(前編終わり)


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