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『運命〜君の居る場所〜』
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『運命〜君の居る場所〜』-2

「未来なんて来ない」「誰も分かってくれない」「人生の脱落者」
ふとそんな言葉たちが脳裏を過ぎった時、携帯電話が警笛のように鳴った。
慌ててテレビを消したが、それは電話ではなくメールだった。
【タイムリミットというのは結構あっさり来るもんなんだね】
まるで自分のことを言われているような内容。
送り主は『志垣平(しがきたいら)』。
大学のピアノサークルの友人だった。
「ヘイ・・・」
言葉に出してそのあだ名を言うだけで泣きたい気持ちになった。
【どういうこと?まさか平も仕事辞めていたりしないよね?】
吟味して送ったにしては、単純な内容の返信に
【椎名、仕事辞めたの?俺の方はとりあえず仕事は休職。終ったのは彼女。】
という暗澹たる返事が来た。
仕事休職。恋人破局。
かなりダーク。
しかし桂介と別れたならそのダークな状況に自分も間違いなくなるのだということに気付き、愕然とする。
そして、桂介が会いにきてくれない今、その可能性は結構高い……。
【会いたい。】
ただ一言。
送ったメールは、色々な気持ちが混ざっていたとも言えるし、本能のままの内容とも言えた。
【いいよ。】
簡潔な返事。
久しぶりに拒否でないそれに、ほっと心が温かくなる。
大学1年生の時に出会ってからもう何年だろう。
平はずっと特別な友達だった。
惹かれていた。
お互いにいつもどちらかに彼女、彼氏が付き合うことはなかったけれど、そうでなかったら付き合っていたと思う。
でも、今はそうでなくてよかったと、そのタイミングを神に感謝したい気分だった。
付き合っていれば別れは必ず来る。
そうしたらこんな風に続いてこられなかっただろう。
これまで私と平はメールをしたり電話をしたり、仲間同士で遊んだりすることが頻繁にあった。
しかし、2人きりで会うことは一度もなかった。
どこかで歯止めをかけてきた。
『傷の舐めあい』
今回の逢瀬は、所詮それ以外の何ものでもないかもしれない。
それでも別に構わない。
私なんかと会ってくれるだけで――。

フローラル系にしては甘すぎず高貴な香りがする、昔、平が誕生日にくれた香水をつけて、私は渋谷の街にくりだした。
待ち合わせは、午後7時半。
ハチ公前という分かり易い、しかしあまりにも人が多いために、待ち人と会うのが困難な待ち合わせ場所。
そこに私は15分前に着き、平は15分遅れて現れた。
その30分間で、私は3人の男に声を掛けられた。
1人は
「貴女の幸福を祈らせてください」
と言い、
1人は
「この字をなぞって下さい」
と白い紙の乗ったボードを差し出し、
1人は
「美味しいドーナッツ屋に行きましょう」
と手を引っ張って来た。
その3人目のドーナッツ男に手を捕られている時に、平はやっと来た。
「何やってんの?」
そう言ってドーナッツ男に捕られていない方の私の手首を掴み、センター街の方にどんどん歩いて行った。
後ろでドーナッツ男が舌打ちするのが聞こえたが、それどころではなかった。
平に掴まれたのはちょうど脈のところ。
明らかに速くなっているであろう脈拍に平が気付いていないか、そればかりが気になった。
しばらく歩いたところで手を離され、
「椎名は隙がありすぎる。」
説教された。
瞬間、鼻がツンとして涙が出そうになった。必死でそれを飲み込む。そのせいで顔が、仁王のように歪んだ。


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