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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ2-1

「いた?」
「いや、だめだった」
『……』
青空は自慢の体力を生かして駅構内を隅々まで走り回ったらしく、灰慈は近くの本屋や売店あたりを見て回ったらしい。
なんとなく二人の性格が行動に出ていた。
そういう俺は、なにも考えずにそれらしい人がいないかを見て回っただけだ。

前述したとおり、ここは都会でも田舎でもない普通の街だが、駅は割と大きく、路線も多くてなかなか進んでいる。
そのため、探し始めてそろそろ一時間だが、全くそれらしき人物は見つからない。
「まだ落としたことに気付いてないかもしれないし、もう電車に乗ってるかもしれないな」
「そうだね。じゃあ駅員さんのとこにでも持って行こうか」
『……ああ』
正直、見つけたかった。どうしても引っかかる。
名前はなんとなく覚えている。しかし、顔や性格はもちろん、どんな関係なのかは思い出せない。
明石悦乃……誰なんだ?
「瞬、また考え事か?行くぞ」
『あ、ああ』
改札口には駅員がいるはず。そして定期券を渡せばそれで終わり。
『しょうがないか』

半ばあきらめかけていたとき、駅員と何やら話し込んでいる三人組がいた。
「女の子だな、あの子たちじゃね?」
「みたいだね」
『……』
「本当に届いてませんか…?」
「さっき落としたんだよ?」
「ほら、悦乃、泣かない」
「でも…」
遠くに見える女の子三人組と駅員との様子を見ると、どうやら間違いないようだ。
少しナンパのようで気が引けるが、ここは声をかけるしかないな。
そう思い、俺が一歩前に出る。がしかし、灰慈が俺の肩を叩き、笑いかけた。
「俺にまかせな」
『お…おう』
灰慈はこういうときに頼りになる。いつも先頭に立ってくれるのだ。
「ねぇ、きみたち」
ん?
「今、ヒマしてるかい?」
あれ?
「もしよければ、俺らと近くのファミレスにでも行ってお茶しないかい?」
待て灰慈!!それはただのナンパだ!!ナンパがしたかっただけなのか!?
やはり予想通り、女の子三人組はポカーンとしている。
嫌な空気がしばらく流れたあと、気の強そうな女の子が言った。
「今はそれどころじゃないの!あっち行って!」
しかし動じず、灰慈はふぅと溜め息をつき、言った。
「……きみ、明石悦乃さん?」
言葉と同時に灰慈がニコッと営業スマイルを見せた。
「えっ?」
気の強そうな女の子はひどく驚き黙り込んだ。
「俺たち、ホームで定期拾ってさ、持ち主を探してたんだ」
青空も続く。
「瞬、渡してやれよ」
灰慈が俺にも営業スマイルを見せ言った。
『ああ……』
俺はその気の強い子に定期券を渡した。
しかしそのとき、おかしなことに気付いた。


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