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【同性愛♂ 官能小説】

花の最初へ 花 0 花 2 花の最後へ

-1

1 その夜は満月だった。
街でいきなり声を掛けられ、一日だけの夜間のアルバイトをすることになった。
林原植物研究所。
夜に開花する植物の、受粉の手伝いをする仕事。
提示されたバイト料に、話がウマすぎる気がしたが、人の良さそうな所長につられ、引き受けてしまった。
俺は渡されたユニフォームに着替え、サンダルを引っかけて、月明かりを頼りに温室へ向かった。
妙にゴワゴワするTシャツと短パン。何故か下着まで用意されていた。
着心地の悪さにモゾモゾしながら、俺は温室の中に入った。
人の歩行に支障がない程度の、最低限の照明だけがついている。
ジャングルのような温室の中は、とても蒸し暑かった。
「高村君」
所長が俺を呼ぶ。
俺は声のした方向へ歩き、薄暗い中彼を見つけた。
所長はこの蒸し暑い中、白衣を着ていた。
白衣の白さが、暗闇で際立っていた。
俺の肌は汗ばみ始め、ユニフォームが身体に貼り付いてくるのを感じた。
「この中、暑いですね」
思わず洩らす。
「気温はそうでもないけど、湿度が高いからね」
所長の手が、俺の首筋に触れる。
そして、俺の汗を確かめるように、襟足を撫でた。
驚いて見つめると、眼を逸らす。それから、わざとらしく腕時計を見た。
「急ごうか。もうすぐ開花だ」
若干の戸惑いはあったが、俺は頷き、歩き出した所長の後ろについて行く。
緑の群の中心に、開花間近の巨大なつぼみのついた植物があった。
「これ、ですか…?」
あまりのデカさに、俺は思わずポカンと口を開けて、それを見上げた。
「そうだよ」
所長はそう言い、足下の照明をその植物に向けて固定した。
暗闇に巨大な植物が浮かび上がる。
地面から伸びた茎の長さは、三メートルくらいはあるだろうか。その三メートルの上に、一メートルほどの長さの緑色のつぼみがのっかっている。
茎は人間の腕の太さほどもあり、そこから枝分かれしている葉も、驚くほどに大きい。傘にしたら、大人が三人は入れるだろう。
「すご…」
俺は圧倒されて言葉を失った。
こんな植物、初めて見た。
人喰い花。
そんな連想がふと浮かんできて、俺はその時初めて身の危険を感じた。
後ずさりする俺の身体を、所長の身体が捕まえる。
強い力で肩を掴まれ、俺は不安になり所長を見上げた。
所長はそんな俺を見て、ニヤリと笑った。
「怖がらなくても大丈夫。コイツは、優しくしてくれるよ…」
恐怖が俺を襲った。
所長の眼は据わっていた。
食われる!
本気でそう思った。
逃げだそうともがく俺の身体を、所長は後ろから羽交い締めにする。
「逃げちゃ駄目だよ。…ほら、見てごらん。花が…」
そう言われて花に眼をやると、つぼみがゆっくりと開いて行くところだった。
現れる、真っ赤な花弁。
俺は息を呑んだ。
あの中心には口が…、と思いながら恐々と見つめる。
だけど中心に現れたのは、牙の生えた口ではなかった。
花の中心には、白い触手のようなものが、ザワザワと蠢いていた。
「綺麗だろう…? 私の最高傑作だよ。これから君には、これの種子を残すために協力してもらうよ」
所長はそう言い、不気味なその花に俺をじりじり近付ける。
「…やっ…やだ…」
食われないことは解ったが、それでもこの花は十分不気味で、十分怖かった。
花まであと一メートルという時、カサカサッと葉が動いた。
枝が俺の方へヌッと伸び、葉の先っぽが俺の頬を撫でた。
(ひぃっ、動いた!)
恐怖と驚きで、声も出なかった。
サワサワと何枚もの葉が、入れ代わり立ち代わり俺の顔を撫でる。
眼を瞑り、俺はその恐怖に耐えた。
「コイツも、君が気に入ったみたいだ」
所長はそう言い、俺の身体を解放した。
たが所長の身体の代わりに、今度は伸びてきた葉が、俺の身体を拘束する。
(ウ…ウソだろ?)
両手両足にくるくると巻き付き、俺の身体は持ち上げられる。
俺はあっという間に、不気味な花の真上に連れていかれた。


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