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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*6*-2

…何!?あたしのためじゃない?


『オーバーヒートを起こしそう』ではなく『起こした』。穴という穴から煙が出ているのではないかと、心配になってしまう。
そんなあたしに悪怯れる様子もなく、矢上は涙を拭きながら言い放った。
「オレね、この後人と会う約束してんの!大事な子だから待たせたくなくてさっ。話し合いぐらいさっさと終わらせないと。でしょ?」
八重歯を見せてニカニカ笑う矢上は気付くまい。あたしの笑顔が引きつっていることに。
「オレ急ぐから!先生には音羽ちゃんから決定事項伝えといてね?じゃあ、バイバイ」
「お、おぅ…」
あたしは無意識で右手を挙げ、颯爽と立ち去る矢上に手を振っていた。
パタンと虚しい音がしてドアが閉まる。それが催眠術を解く合図であったかのように、あたしはハッとして左手で右手の手首を掴み、無理矢理手を振る作業を停止させた。


嗚呼、何ということだろう。


あたしは、ものすげぇ恥ずかしい勘違いをしてしまっていた。
あたしが困っていたから助けてくれたんだと、信じて疑っていなかった。が、実際はあたしのことなんぞ少しも考えておらず、とにかく早く終わらしたいという矢上の気持ちが『怒鳴って黙らせる』という行動をさせたらしい。
しかも、あれだけ嫌味無く言われると、ムカつくにもムカつけない。まぁ、勝手に勘違いをしたのはあたしなんだけど。
でもやっぱり腑に落ちない。
結局はデートのためかよ。関係ない奴なんていない、って言ったのも嘘っぱちかよ。
…でも、よく考えてみろ。『あの』矢上だぞ?
あたしは矢上の意外な一面を見て、感覚がおかしくなってしまったに違いない。矢上の『恋愛スケジュール』を作るとしたら、きっと毎日毎日デートの繰り返しだろう。そんな人が、あたし一人のために動いてくれるはずがない。
考え方を変えれば、あまり深く関わらない方が貢がせられなくて済むのかもしれない。
どうやらあたしは、矢上の毒素に犯されていたようだ。矢上という人間を美化し過ぎていた。どんだけ優しくされても、あたしの大切な友達から合計で何十万も騙し盗ったことに変わりない。
だけど今更、大嫌いになれない自分がいる。
これは事実。
ワザとだろうが、計算だろうが、矢上の優しさを嬉しく思ったのも事実。
これからも、少なくとも文化祭まで付き合っていかなきゃいけないのも事実。
じゃあ、あたしは…


一線置いて、矢上と接していこう。


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