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『半透明の同居人』
【悲恋 恋愛小説】

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『半透明の同居人』-3

  「ところでルイ。君はどうしたら僕の元から巣立ってくれるのかな」
 少し皮肉を込めて言ってみた。この状況に少し慣れている自分が信じられない。
 「さあ?」
 「は?さあって、そんなことないだろ?」
 「だって、判らないものはしょうがないでしょ!私だって好きでこんな状態でいるわけじゃないんだから」
 彼女の言葉は死んでしまったことに対するものなのか、幽霊となったことなのか、僕に取り憑いていることなのかわからなかったが、彼女自身どうすればいいかわからないようであることは事実のようだった。しかし、僕は一つだけ確認しておきたいことがあった。
 「どうして、僕なんだ」
 この問いに彼女少し間を空けた。
 「さあ?たまたまなのかも知れないし。仕組まれたことかもしれないし。私にはわりませーん」
 彼女は少しおどけて言った。
 結局、僕がこの少しおかしな幽霊に取り憑かれた理由も、除霊の術も全ては謎であったのだ。こうして僕の部屋にゴキブリ以外の同居人が増えた。


 結局昨晩は、一睡も出来なかった。自分が非現実な状況に置かれて気持ちが整理できず混乱していたからではない。このおかしな同居人幽霊のルイが僕の身の周りのものをひたすら珍しがり僕にそれについての説明を求めるからだ。彼女が興味を示すものは現代急速進歩した電化製品だった。例えば、携帯電話。彼女は携帯に特に驚いていたようだった。

 「ねーねー。これ何?トランシーバー?」
彼女はテーブルの上の携帯を手に取ると僕の方に向けてきた。幽霊がモノに触れるしかも、持ち上げることが出来ることに驚いたが、自分が取り憑かれている事実に比べればたいしたことなかった。
 「携帯電話を知らないのか?」
 「ケイタイデンワ?」
 「そう。これで、どこからでも電話をかけることが出来る。」
 「すごーい!こんな小さいのに。ほへ〜」

他にも、MDやパソコンを彼女は初めて見たらしかった。
しかし、これから、一つ判ったことがある。少なくとも彼女は10年以上前に亡くなったと言うことだ。それが、今になって幽霊となって現れた。今はこれだけしかわからない。何故今になって彼女は幽霊となったのか?

 「取り憑くってどういうことなんだ?」
僕は朝食のトーストをテーブルで食べながら聞いた。彼女はテレビに釘付けだ。どうやら、CMや番組のリアルさが新鮮らしい。僕としては質問攻めから解放されてほっとしている。その光景は新しいおもちゃを与えられた子どもに似ていた。
 「どういうことって?別にあなたの身に災いが起こるってことはないよ。」
 そのことは、僕を少し安心させてくれた。最も、彼女に災いをもたらすような力があるとは思えないが。
 「ただ、あなたの生活範囲から私は抜けられない。」
 「生活範囲?」
 「簡単に言うと、あなたを中心とした半径10メートル以内から私は抜けられない」
私は抜けられない・・・つまり取り憑いたと言っても、むしろ不自由なのは彼女の方なのだ。それは、僕がどうこうというより、彼女にとっての呪縛であるように思えた。


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