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微笑みは月達を蝕みながら
【ファンタジー 官能小説】

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微笑みは月達を蝕みながら―第壱章―-8

「俺を……どうする気だ!?」
「え?」
「お、俺を殺すのか!!?」
殺す、という言葉を自分で使い――血の気が引いた。
「ちょ、ちょっと」
「た、確かに俺、あ、あんたらにひどい事したかもしんないけど、そ、そこまで」
「あ、あのね」
「お、れ俺の血を吸う気なのか? だからこ、こんな」
「ね、ねぇ、夕君」
 白が落ち着け、と言いたげにトントンと肩を叩くが、混乱は収まらない。
「ねぇ、ちょっと待って話を」
「うわぁ! やめてくれ、やめ―――!!」

「じゃかましい、このクソガキが!!!!!」

 ――時間が停止した。
「主人が話をしているだろうが黙って聞いてろ鬱陶しい!!!!」
 全員が声の主、白い気品溢れる猫を見ている。
「……主人も主人だ。何故わざわざそんなガキに話す必要がある?」
 静かな、抑えた声に戻る。……なんだこの落差は。
「え? あ、そうそう」
呆気にとられていたレンも、話す目的を思い出したのか、
「別にあなたをどうこうする気はないの」
元の微笑みに戻る。
「ただね、貴方行くところないんじゃないかと思って」
「え?」
「泊まっていっても私はいいの。ただね、最初にこれだけ断っておかないとと思って。それだけなのよ」
「そう…なんですか…」
正直まだ頭の整理がついてないが、害意は多分ないだろう。
それに確かに出ていっても行くところなど無かった。
「――貴方、名前は?」
軽やかで涼やかな声。いつまでも聞いていたくなるような。
「月島…夕…」
 夕は――答える。
吸血鬼はより一層優しく微笑むと、
「白と仲良くしてあげてね」
そう言って、頭を下げた。
――白はそれを黙って見ている。



「変わった方でしょう」
とりあえず今日は此処に泊めてもらうことにした。
先程の部屋を出て、また別の部屋に移動する。意識してみると、二人暮しには広すぎるように思えた。
「普通ならね、レンさんみたいな魔物と呼ばれる存在は、人間を嫌ったり見下したりするんだけど」
「あの人は違うのか?」
「うん……その辺は昔からそう。人間の事に興味持ってた」
そういえば。
「レンさんだっけ? パソコンとかあったけど、使うの?」
「あ、うん。使ってるみたい。私はそういうの、わかんないけど。レンさん、携帯とかも持ってるから」
「へぇ、普通に現代人だな。……いくつなの?」
「さあ? 私は四百歳ぐらいだと思うけど……」
「よ、よんひゃくさいっ!!!??」
今日聞いた話の中でも最も驚いた。
「え? レンって人も?」
「あの人は……いくつなんだろ。多分誰も知らないと思う」
妙に声が堅い。起きた時と比べても、なんだか違う気がする。


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