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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*3*-1

「…ぅあっ…計画書忘れた…」
あたしがそれに気付いたのは午後九時を回ってからだった。
樋口が書いてくれたメモをもとにまとめようと思っていたのに…不覚。
明日、朝早く学校に行ってまとめるという手もあるがそれじゃあ間に合わない。だけど何もしなかったら、あたしたちのクラスの出し物は『休憩所』。そんなことになったら、あの子たちに何を言われるか分からないし、何より実行委員としてのプライドが許さない。
仕方ない。取りにいこう。
あたしはケータイのメモリーから、好美の番号を捜し出し電話を掛ける。トゥルルルルという軽い電子音が数回鳴ったかと思うと『ふぁ…い…』という、いつもより低い声が聞こえてきた。
「もしもし好美?音羽だけど」
『知ってるよ…、んで?何?』
「今から学校付き合って」
『はぁ!?何で夜になってまでガッコ行かなきゃいけないの!!あたし寝てたんですけど…』
「そっ。でも、手伝うって言ったよね?文化祭に関係あることなんだから。準備して待ってて」
『言ったけどでもぉ』


―ブツッ…


少し強引かな。まぁいいか。隣の席に座らせられ、ハメられて実行委員にさせられたあたしの方が、数十倍辛いたんだし。
あたしはケータイをジーパンのポケットにねじ込み部屋を出た。
玄関でスニーカーを履きながらあたしは
「ちょっと出掛けてくるー」
と叫ぶ。
すると、洗面所から歯ブラシを持ち、口に泡を付けた母がヒョッコリ顔を出した。
「どこ行くの?」
「学校。忘れ物した」
「ふーん、そう。気を付けて行ってきてね」
「うん、じゃあ行ってくる」
泡だらけの口でニカニカ笑いながら手を振る母に、苦笑しつつ手を振り返して玄関を出る。
正直、あの顔はナシだよなぁ。我が母親ながら恥ずかしいよなぁ。なんてことを考えながら、あたしはドアのすぐ脇に停めてあった自転車を押して道路まで出ていき、サドルにまたがってペダルを強く踏んだ。


あたしの家から五分程自転車を飛ばすと好美の家に到着する。
家の前にはデニムのショートパンツにロンTを着て腕組みをし、ときたま眠そうに欠伸をする好美が立っていた。
「間に合ったんだね、好美」
あたしは片手を挙げながら、比較的明るめに好美に近付く。
「間に合うもなにも、あんなの強制じゃん。間に合わせなかったら絶対音羽キレてそうだし…ふぁ〜あ」
大口を開けて欠伸をしながら、好美はトロトロとさも当たり前のように自転車の荷台にまたがった。
「何で後ろ?」
当然、あたしは疑問に思う訳だ。これ以上無駄な労力は使いたくない。
「いいじゃん…付き合ってあげるんだから。ケチケチしないでよっ!」
…まぁ、これぐらいいっか。付いてきてもらわないと心細かったし。
「はいはい」
「つぅかさ、あたしの睡眠妨げたんだから、何がどうなってこうなったか…理由聞かせてね」
あたしは前を向いていたから実際は分からないけれど、声のトーンが元に戻っているところからして、今好美は楽しそうにニヤ付いているに違いない。
「まぁ、それは行きながら…ね?」
あたしも少し笑った。きっとあたし同様、後ろの好美にはあたしがどんな表情をしたのか分かっているだろう。
テンションが上がりお節介な聞きたがりと化した好美と共に、あたしは学校までの道程を颯爽と駆け抜けた、愛車のボロいママチャリで。
月の明るい夜だった。


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