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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*2*-2

「えーっと、まず準備は皆でするだろ?」
「ふんふん」
樋口はあたしに問い掛けながら、スラスラとペンを走らせる。
「当日は調理係、買い出し係、接客係の三つに分けて各自仕事をする」
「ほほぅ」
「売り上げで出てきた金を買い出しに廻せば、結構たくさん料理作れると思うんだ」
あたしはコクコク頷く。
「装飾は、まぁ、俺の趣味だけど…バイキング風にしたいんだよね」
「何で?」
「楽しそうだから!」
率直、且つ、分かりやすい理由に、あたしは妙に納得してしまう。
「で、喫茶店だからドリンクくらいはオーダー取って…みたいな感じでいかがっすか?」
さらさらと何か書き上げると、樋口はあたしにルーズリーフを手渡した。さっきまで何も書かれていなかったルーズリーフには、びっしりとメモやら図やらが走り書きされていた。
「すっ…ごーい…」
「そうか?んじゃ、俺帰るわ。頑張れよ」
樋口は自分の机の脇に掛けてあったリュックを掴むと「明日なぁ」と手を振りながら去っていった。
まるで三分間だけみんなのために戦ってくれる巨人のようだ、とあたしは思った。計画書という名の宇宙怪獣から短時間であたしを助けてくれたのだから。
ホクホクした気分で帰ろうと鞄に手を伸ばしたその時、あたしは気付いた。
矢上のことスッカリ忘れてた。
矢上はどこから取り出したのか、チュッパチャップスを不機嫌そうに舐めていた。
「何アレ…」
カラカラと口の中で飴玉の部分を転がす。
「あんだけポンポン出てくんだったら、最初から実行委員やりゃあいいじゃん…」
「は?」
あたしは耳を疑った。
「自分に責任無くなった途端張り切る奴、ムカつくんだよね」
矢上は一体何を言っているのだろう。これは…樋口に対する悪態だろうか?
「こっちだって好きでなった訳じゃね…」
「ちょっと、何言ってんのっ!?」
気が付いたらあたしの口は矢上の言葉を遮っていた。そして、マシンガンと化した口はもう、どうにも止まらない。
「何もしなかったくせして樋口の悪口言えんの!?責任逃れしてるアンタに、何も言う資格無いでしょ!?」
立ち上がった勢いで椅子がガッターンと倒れたが、気にしない。
「しかも、好きでなった訳じゃない?あたしだってそうだよ!でも、自分なりに頑張ってるよ!!一人じゃどうしようもないから、カラオケ断ってまでアンタと三時間も話し合ってるっつぅのに…ホンット、使えねぇ!!樋口はあたしたちのために頑張ってくれたんだよ?なのに、何その言い草!最低だよ!!」
途中私事が絡んだけれどやはり気にしない。
「いい?実行委員は肩書きだけじゃないんだよっ!?気持ちの問題なんだよっ!!みんなの期待背負ってんだよっっ!!」
目を見開いてポカンとしている矢上を、精一杯の怒りを込めて見下す。
「アンタみたいな最低な人間、初めて見た…」
あたしは鼻息も荒く鞄を引っ掴むと、微動だにしない矢上に背を向け、倒れた椅子もそのままに教室を出ていった。
机の上にまだ何も書かれていない計画書と、樋口のメモが書かれているルーズリーフを置いてきてしまったことにも気付かずに。


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