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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*3*-2

「えぇっ!!瑞樹、そんなこと言ったのぉ!?」
暗い廊下に好美の声が響く。別に悪い事をしている訳ではないけれど、誰かに見つかるといろいろと面倒臭そうなので、あたしは「しぃっ」と自分の唇に人差し指を当てた。
「黙らっしゃいっ」
もちろん小声である。
「ごめん…。で、音羽どうした?」
好美の声が極端に小さくなった。こんなに近いのに声がほとんど聞こえないので、あたしは唇の動きで読み取る。
「うん…それがね、あたしブチ切れしちゃって、あんま覚えてないんだ。怒鳴り散らして、そのまま教室出てきちゃった」


私たちは、一階から二階に上がる階段に足を掛けた。ゆっくり、登っていく。


「すんごいボロクソ言ったような気がする…」
実は内心、少しだけ、本当にほんの少ぉ〜しだけ罪悪感を感じていた。
がしかし、好美はあたしの内心とは裏腹に手を叩いた。もちろん、音は出していない。
「音羽ぁ。あんた偉い、よくやった!何言ったか覚えてないのは非常に残念だけど…イイ仕事した!!さすがあたしの悪友♪」
…親友ではないらしい。
まっ、そんなことは置いといて…。
どうやらあたしは、良いことをしたらしい。好美の、出来る限り思いっ切り掌を開き、指の骨が反り返る正にその場所をぶつけ合い『パチパチ』ではなく『コッコッ』という小さい間抜けな音の拍手を見ていると、元々塵程しかなかった罪悪感は綺麗サッパリ消え失せた。
「あんまり、あたしを舐めないでよねっ」
申し訳ないが威張らせて頂く。


階段を登り切り、二階に到着。まだ、暗闇に目が慣れない。
二階から三階に上がるのも今まで動揺、頭を下げ、転ばないよう足元だけを見ながらゆっくり登る。


「やっぱり音羽はボスだよ、ボス。ロールプレイングゲームで言うところの、ラスボスだよ!」
全然意味が分からない。あたしがラスボスと言われて、喜ぶと思ってるんだろうか。
「レベルが桁違いっつぅの?瑞樹に啖呵切れるのあんただけだよ。ヒューウヒューウ」
一番最初に戻りつつある好美の声は、暗く妙に静かな校舎に吸い込まれていった。


とうとう、二階と三階の真ん中にある踊り場に来たらしい。
下を見て慎重に歩き、三階へと繋がる階段を一段登ったその時だった。


―ガシッ!


あたしは少しビクンとしたが、腕を掴んだのが好美だと分かった瞬間、自分は愚かだと再確認した。
「いきなり何?」
「あのさ…」
あたしの不機嫌な声に答えたのは、好美のいつもの声でなかった。
「怖く…ない…?」
怖くない、と言えば嘘になる。さっきまで何とも思わなかったのに、会話が途絶え、前方に聳える暗闇へ続く階段を見上げると、急に恐怖感があたしを襲った。この十数段ある階段を登れば三階の廊下で、すぐ一組の教室がある。にも拘らず、あたしは足を動かすことが出来なかった。
「ちょっとだけ…」
嘘。


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