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ふぉあしー
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ふぉあしーA〜幼子パニック〜-2

「“しらたま”まってぇ〜」
「“しらたま”?」
「うん、ねこさんのおなまえ」

足と尻尾の先の白い部分が白玉団子みたいだからだろうか?

「たくや君が付けたの?」
「ううん、“しらたま”がぼくは“しらたま”だよっておしえてくれたの」

にわかには信じ難いが、所詮は子供の言う事なので、軽く流すことにした。
それよりも今は“しらたま”を追うことに集中しなければならない。
何せ猫なので、人が通るような道じゃない『道』ばかりを通るのである。
路地裏にある人一人が通るのがやっとの細い道。
荒れ果てた洋館の庭。
10メートルはあるかという崖の上。
民家の塀に空いた直径60センチほどの小さな穴、等々。
どこも私が産まれ育った町の中にあるはずなのだが、全く見覚えがない。
しかもさっきから同じ所をぐるぐると回っているような気がするのだ。
いや、それはあくまでも「気がする」だけだ。
現によく目を凝らして見てみると、さっきとは違う場所だということはすぐに分かる。
しかし出口のない亜空間に閉じ込められてしまったかのような恐怖は簡単には拭い去れない。
それ故につい繋いだ手を強く握り締めてしまう。

「おねえちゃん、いたいよ〜」
「あ、ごめんね」
「うん、それよりもはやくいかないと“しらたま”がいっちゃうよ?」
「そ、そうだね。行こ?」

たくや君は無邪気に猫を追いかけ、私はエンドレスな恐怖に怯えながら猫を追いかける。



あれからどれだけ走ったのだろうか?
突然“しらたま”が公園の植え込みに飛び込んだ。
その後に続いて私とたくや君も植え込みの中に入っていく。
葉っぱまみれになりながら植え込みを抜けると、そこには見知った風景が広がっていた。

「駅前……?」
「みゃ〜お」

私の呟きに答えるように“しらたま”が鳴いた。
しかし私とたくや君を導いてきたその猫の姿はどこにもなかった。

「おねえちゃん、“しらたま”がいなくなっちゃった」
「うん、そう…だね…」

一体あの猫は何だったのか?
駅前には始めから来ようとしていたからわざわざ猫を追ってくる必要はなかった。
さらに分からないのは時間だ。
ずいぶん長い間猫を追っていたはずなのだが、時計を見てみると、たくや君のママを探し始めてから10分たらずしかたっていない。
そんな疑問が頭の中をぐるぐると回っている。

「ママ……」

たくや君の声で我に返った私は言う。

「はやくママを見つけないとね?」
「うん!」



「拓也!」
「ママ!」

その後すぐに駅前の新築のマンション前で、たくや君のお母さんは見つかった。
マンションを見上げると、二羽のツグミが空を舞っていた。
私はたくや君のお母さんにお礼にお茶でもと誘われたが、あちこち汚れた制服でお邪魔したらまずいと思って、丁重にお断りした。


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