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きゅっ。
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きゅっ。 〜U〜-2

―快晴―
言葉にすればそんな表現が似合うだろう、朝。雲一つ無く、寒くもなく、暑いと思わせない程度に風がそっと頬をなぜていく。
大型バイクにまたがり、美咲の家へ。

美咲の家の前にはすでに美咲が立っていた。凌は開口一番
「危ないよ。待っててくれるのは嬉しいけど。車だって通るだろうし…。」
美咲の心配をしたのだが
「大丈夫。」
そう言ってにこっと笑顔を向けられてしまうと、次の言葉をぐっと飲み込んでしまう。
「バイク?」
「そう。天気もいいし、ドライブに、と思って。バイクで悪いんだけどさ。」
「だから昨日ズボンでって言ったんだね。」
「そ〜いうこと。さ、ここに手置いて、またがって。」
「こ、こう?」
「ん。OK。手は俺の腰に掴まるかんじ。」
凌の腰にきゅっと美咲の手がまわされる。
「もっとしっかり掴まらないと振り落とされちゃうよ?」
ぎゅっ。
「んじゃ、出発!気持ち悪くなったり、恐くなったら言って?」
「うん。」
返事をしかと聞いて美咲にヘルメットをかぶせ、エンジン始動。
バイクに乗ることは初めての美咲。はじめは恐怖心の方が勝っていたんだろう、言葉少なにただ凌に掴まるだけだったが少し経つと慣れてきたのか、美咲からしゃべるようになった。
「気持ちいいね〜?ジェットコースターに乗ってるみたい。」
「だろ?むしゃくしゃした時とかに乗ると最高だぜ。」
「凌でもむしゃくしゃする時あるんだ?」
「俺を誰だと思ってんだよ?」
「ははは〜、人間だもんね。誰でもむしゃくしゃするよね。」
「そ〜いうこと。も〜すぐ着くよ。どこだかわかる?」

耳を澄ませ、周囲の音に意識を集中すると
サーッと水がよせてはひいていき…波の音が聞こえる。

「海?」
「正解。ちょっと寒いかもしれないけど。」

ジャリジャリとふたり音をたてながら誰もいない浜辺を歩く。靴は脱いだ方がいいかもね。という凌の提案で裸足で。
「だぁ〜れもいない海って静かだね。波の音しか聞こえない。」
見渡す素振りをしながら美咲が言う。
「海嫌いだった?」
秋もだいぶ深まろうとしている時期に失敗だったかな?と思い口にする。
「大好き。」
そう言って笑う横顔につられて
「俺も。…美咲、君も。」
言ってから、はっとした。何を口走ってるんだ。まだ告白は早すぎるからもっと後にしようと、時期がきてからにしようと…
「私もだよ。なんでかな?凌と一緒にいると安心するんだ。」
「へ?」
予想もしていなかった返事に変な声をあげる凌。一方美咲は頬をうっすらと赤らめている。
「変…かな?まだ会って間もないのに。」
「そんなことないよ。嬉しいよ。」
そっと美咲を自分の肩へ抱き寄せる。

砂浜に腰を下ろして海を眺めるふたり。「夕日綺麗だね。」と言いかけてぐっと飲み下す。そんな言葉を口にしたら現実を彼女に突き付けているようなものだ。目が見えない、という現実を。

突然美咲の手によって視界が遮られた。その両の指先は凌の顔をそっと撫でていく。
「凌の顔をこの指に刻みつけようと思って。びっくりさせてごめんね。」
無言で目を閉じ、じっとしている凌。
「ありがと。」
美咲が手をひっこめようとする直前、その手を握り、美咲をぐっと引っ張り自分に近付け、逆の手を美咲の顎に添え、優しく触れ合わせるだけのkissを。そうするのが当たり前かのような。
ふたりの唇が離れ、どちらからともなく手をつなぎ、再び浜辺を歩きだす。波が心地よい音を奏でる中を。夕日がふたりの為に沈むまいとしているかのような空模様の中を。


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