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きゅっ。
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きゅっ。 〜U〜-1

僕が君の存在を知ったのはふとしたことだったんだ。でも今はそれが運命だったんじゃないか、とさえ思えるんだ。

去年、親友の山崎啓斗に誘われて、その彼女、間宮香織がいる女子校の文化祭に行った時、ひときわ輝いて見えた女の子がいた。彼女の名は名取美咲。後に啓斗から聞いたんだ。

名取美咲
何故か頭から離れなくなった。彼女は目が見えないと聞いた。今まで彼女はどう生きてきたのか?どんな不安と闘ってきたのか?考え出すとキリが無い。そうして決まって出てくる答えは彼女の未来を一緒に歩いていきたい、という想いだった。

先日、彼女に会った。
会ってみてわかったんだ。彼女がひときわ輝いて見えた理由が。“今”を一生懸命生きているからなんだと。逆境に負けまいとする彼女の意志がヒシヒシと伝わってきたんだ。

俺は?
適当に生きてきた俺に、彼女に何ができるというのだろうか?


「よっ!」
ポンと肩を叩かれてはっと我に返る。
「ど〜したってんだ?悩んでます。ってオーラ出まくり。」
普段馬鹿みたいなキャラなんだが…こんな時、侮れないやつなんだよな、と啓斗を見やる凌。
「悩んでるか〜…悩んでるっていうのか?これは?」
いつもの凌らしからぬ反応におやっ?と首を傾げる。
「恋の病」
ボソッと囁く。耳元で。
「!?」
言葉にならない凌。
「恋の病は直接本人に会ってみると案外解決するもんだって。」
恋の病の部分だけやたらでかい声で言ったもんだから、周りにいた男子が羨ましそうな視線を送ってくる、ここは男子校なのだ。色恋ざたはご法度。


「美咲〜電話〜」
階下から母の声。急いで階段を降り、受話器を手に取ると
「男の子からよ。」
コソッとそう告げる母の声はどこか嬉しそうだ。そんな母を部屋へ追いやってから受話器を耳へ運ぶ。
「…もしもし。」
「もしもし。ごめんね、突然電話なんかして。」
受話器から聞こえてくるのは凌の声だった。
「うううん。どうしたの?」
「明日…日曜だし、もし暇ならどっか行かないかな?と思ってさ。」
「うん。行く。」
「じゃ、家まで迎えに行くよ。…それと、スカートじゃなくズボン履いて待ってて?」
「うん?わかった。」

「うん。行く。」ってかわいい声だったな。なんて思いながら受話器を置く。
しかし…。目が見えない女性と付き合ってる世の男性は、普段どうやって連絡とりあってるんだ??携帯が普及しつつある今のご時世、実家に電話するなんてこと、なかなか無いもんだから父親が出てきた場合の対処方も心の準備もしていたのだ。
「こんなに緊張したのは初めてかもな。」
自分の情けなさにしばらく苦笑いが止まらない凌だった。


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