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きゅっ。
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きゅっ。 〜U〜-3

ふたりが帰ろうかと思い始めた頃、凌の携帯が鳴りだした。無機質なコール音の携帯のディスプレイを覗くと啓斗の文字。
「もしもし。」
「もしも〜し。恋の病は治りましたか?」
正直、美咲とのふたりっきりの時間を邪魔するなよ…と思いながら電話にでたのだが、人の心配するこういったところは憎めない、いい奴なんだよな。と報告しはじめる。
「治るどころかますます陥りそうですよ。」
「えっ!?振られた…のか?」
「残念。その逆。」
「なんだよ。驚かすなっつ〜の。」
「というわけで。美咲との貴重な時間を邪魔しないでくれる?」
「へいへい。邪魔者はさっさと電話きりますよ〜。」
プチ。
「美咲」と呼ぶその穏やかな聞こえに凌の幸せそうな顔を想像すると、自分まで心が和んだ気がした啓斗だった。

「切るのはやっ。」
そう言って通話終了のボタンを押す凌に
「啓斗さんから?」
顔をやや斜めにして美咲が尋ねる。
「そ。たいした用じゃないから。」
「あたしのことは気にしなくてもよかったのに。」
「美咲はよくても俺はあまりいい気しないから。」
つないでいる手にほんの少し力をこめる。それに答えるよう、美咲も握り返す。お互いにほほ笑みあい、今この瞬間のささいな幸せをかみしめていた。


“祝・カップル誕生”
翌日、学校に着くと教室内がざわめいていて、クラスメイトに指差されたずっと先の黒板に目を向けると…ハートの囲いの中にそうでっかく書かれていた。
「……。」
ポカーンと開いた口が塞がらないとはまさにこのことだろうか。凌は口を閉じる行為そのものを忘れてしまったかのように、しばらく放心していた。
こんなことするのはクラスに一人しかいない。そう、教室の隅で談笑しているあいつ。
「け、い、と。」
ん〜?と啓斗が呼ばれた方へ振り向くと、そこには眉をつりあげながら妖しい笑顔を自分に向けた凌が立っているのだった。
一限目が始まるまでの短い時間、凌はクラスメイトの質問づけにあった。なぜならここは男子校。恋の話はタブー。しかし、凌が啓斗を怒ったりしなければ、誰も凌のことだと気付きもしなかっただろうに。少なからずこの間の、啓斗が大声で言った「恋の病」発言を聞いていなかった人には。怒りMAXの凌は当分気付きもしないだろうが。


二限目あたりには凌の怒りもおさまってきたようだ。なぜこんなことをしたのか?と考える余裕が持てていた。
彼にはわかっていた。啓斗がこうやって人を怒らせる行為をする時には、何らかの大きな壁にぶちあたっているからなんだと。

「何があったんだよ?啓斗…。」
窓の外ののびのびと空を舞っていく鳥を眺めながら、誰にも聞こえないくらい小さな声で、ひとりそうつぶやいた。


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