投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ウレシナミダ
【その他 恋愛小説】

ウレシナミダの最初へ ウレシナミダ 1 ウレシナミダ 3 ウレシナミダの最後へ

ウレシナミダ-2

おかしい…。
この男とは先ほど出会ったばかりだ。
なのに男の表情にドキドキする。
「死んでしまうのはもったいない。…いっそ、俺の花嫁になれ。あの殿下は馬鹿だから逃げて正解だったな」
男の言葉に私は唖然とした。
冗談だとしても、自分の主である王族、それも殿下が求婚した相手に「花嫁になれ」と言うのだ。しかも、殿下のことを馬鹿と言った。
「なっ、何を言ってるんだ!」
「俺じゃ不満か?」
真っ直ぐ見つめられ、言葉を失う。
「俺はお前が気に入った。近々迎えにくる」
「どうやって?」
「それはその時になれば分かる。それまで死ぬな。この世には自分はいなかったように死にたいんだろ?だったら、お前がいたことは俺が覚えている。だから、死ぬなよ」
「お前は、何なんだ?」
「ただの見張りだ。じゃあ、必ず迎えにくる。…アリィ」
「ちょっ…!」
バタンと扉が閉まる音がした。
牢の中は静まり返り、ほんのりほてった頬に冷たい空気が刺す。
「名前…知っていたのか」
冷たい床に横になり、目を綴じた。
浮かんでくるのは先ほどの男の顔ばかりだ。
男の笑んだ顔と瞳を思い出す度に胸が高鳴る。
この気持ちを何と呼ぶかは分からない。
『必ず迎えにくる』
ただ男の言葉を信じてみようと思った。


男と出会って一週間ほど経った。
どうなっているかは分からないが、私の刑の執行は延びていた。
一日二回出されるまずい食事もきちんと食べた。
前の私だったら食べなかっただろう。だが、今は生きて待っていなければならない。
暇な時は歌を口ずさんだ。
もしかしたらあの男にも届いているかもしれないという淡い期待を抱きながら…。
ある町娘が王子に恋し、王子を想って謳った歌だ。
私のあの気持ちは恋、だったのだろうか?
だとしたら、あの男にもこの歌が聞こえていることを願った。
と、バンッという音と共に扉が開けられた。
入って来たのは軍服を着た二人の男だった。
一人の男が鍵を開ける。
「出ろ」
そう一言だけ男は命じた。
私はふらふらと立ち上がり外に出た。
両脇を男達に掴まれ、そのままある部屋へ運ばれて行った。
白い扉を開けると甘い香りが漂った。
出てきたのは、人の良さそうな小太りの小母さんだった。
「さっ、こっからはあたし達に任せて!あんたたちは早く出て行きな!」
小母さんはしっしっと男達を追い払うと、私を部屋の中へ導いた。
どうやら浴室らしい。
小母さんはいきなり私のボロいワンピースを脱がし始めた。
「ちょっ、何するんだ!?」
私はバタバタと暴れるが体を別の女の人に押さえ込まれ、身動きが取れない。
そのまま、されるがまま風呂に入れられ、ベタベタと色々なものを塗りたくられ、服を着替えさせられ、顔には化粧をされ、髪を結い上げられた。
されるがままの私も段々状況が分かってきた。
身にまとっているのは、純白のドレス。
結婚されられる…。
約束、守れない。
私はペタリとその場に膝をついた。
今度こそ逆らったら死刑は免れないだろう。もしかしたらその場で切り捨てられてしまうかもしれない。
抵抗はできなかった。
腕を引っ張られ、立ち上がる。
小母さんは私を先ほどの男達に引き渡す。
最後に「お幸せに」と言葉をかけてくれたが、少しも笑えなかった。


ウレシナミダの最初へ ウレシナミダ 1 ウレシナミダ 3 ウレシナミダの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前