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月蝕
【痴漢/痴女 官能小説】

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知らない場所-1-1

 『五十三歳 男性 クンニで満足したことのない貴女。満足させます。止めてと言っても舐め続けます。挿入にはこだわりません。クンニにはこだわり続けます』

 私より二十歳も年上。挿入にはこだわらない。ということは、ずっと愛撫してもらえるってことなの。たいていの男は、挿入すると、私が感じはじめたくらいのところで、先に射精してしまう。
 その後は、男は、けだるそうにタバコに火をつけ、日常の話を始める。話の内容は、どの男も、たいてい理不尽な上司もしくは使えない部下のこと。それ以外は、妻や彼女の話がほとんどだった。
 男にとって、妻や彼女以外とのセックスは、非日常の時間ではなく、もう一つの日常でしかないのだろうか。
『止めてと言っても舐め続けます』
 クンニし続ける男。もしかしたら、この男なら、非日常に陶酔できるのかもしれない。そう思い、いや、そう願い、私は、この男にメールを出した。
 待ち合わせの場所には白髪交じりの上品な男性が立っていた。少し長めの前髪が風に揺れ、それを手で軽く押さえるように直した。優しそうではあるが、この男性の下半身にパワーがあるようには、思えなかった。だから、ずっとクンニ、なのか、と、私は妙に納得をしてしまった。
「こんな老人で、がっかりしたようでしたら、ここで綺麗に別れましょう。あるいは、食事だけでも、と、そう言うのでしたら、この先に、美味しいイタリアンの店がありますから、そちらにでも」
 それだけ言うと、私は何も答えていないというのに、男は、私の背にそっと手を回した。まるでハリウッドの映画のワンシーンのようだった。薔薇のようないい香りがした。でも、薔薇ではない。この落ち着いた匂いはムスク、いや、違う、私には分からなかった。私は、香りにこだわったことがなかったのだ。だから分からない。それが、ものすごく恥ずかしいことのように感じた。
「あの、まだ、私」
「私も、まだ、どこに行くとは言っていませんよ。もしかして、イタリアンは嫌いですか」
「いえ、イタリアンは大好きです。でも、お腹はすいてません」
「では、ホテルを先にしましょうか」
「はい」
 どうして、初めて会った、それも、明らかに初老の一見すると弱々しそうに見える男の言いなりに私はなっているのだろう、と、思った。そして、その次の瞬間、ああ、この女性のエスコートの仕方だ、と、そう思い直した。全ては下から、態度は恐縮しているのに言葉は強制的、触れる手は優しいのに、私を導く態度は指導的。
 強引な男性など掃いて捨てるほどいた。恐縮ばかりの弱腰の男性も同じだ。でも、彼は、その両方を持って、しかも、バランスが絶妙なのだ。
 クンニ。いったい、この上品そうな、一見すると気の弱そうな紳士が、本当に、クンニなどするのだろうか、それが本当に好きなのだろうか、ここまで来れば、もう、私は自分の好奇心には勝てない。私はそうした女なのだ。


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