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こいびとは小学2年生
【ロリ 官能小説】

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メロンソフトと芝生と世界にひとつだけの笑顔-2


「やだお兄ちゃん、どうしたの?」

「さおりさんこそ、お店」

「うん、お兄ちゃんが具合悪いって言ってたから、お店早退してお粥と豚汁持ってきたの。ドアノブに掛けたよってラインしようとしてた今」

「あ、ありがとうございます……」

 息を整え、言葉をつなげる。かすれた声が出た。

「あの、さおりさん。ちょっと話したいことが……」



 異動の話、ペンディングになりました。そう切り出すとダイニングテーブルの向こうのさおりさんの表情が硬くなった。

「まったくなくなった、というわけではないらしいです。でも、人員の確保の目処がたたないので当面は異動はない、と思っていてほしいって……」

「そう……」

 さおりさんのため息の温かな息臭が伝わる。それを楽しむ余裕は当然ながらない。

「俺……しのちゃんにどう言ったらいいか、わからなくって。こないだも、宮古島の話したりして、しのちゃんすごく楽しそうだったし……」

「私にも言ってた。お兄ちゃんと宮古島で結婚するんだ、って」

 慈しむような笑顔に少しだけ気持ちが穏やかになる。けれど、支店長から聞かされた事実は消えない。

「会社の人にしののこと、ていうか、交際相手が、みたいなことは言ってあるの?」

「いや、言ってないです。異動したい理由にもプライベートのことは入れてないので」

「まあ、そうだよね。個人の事情って、わかってくれる人よりもそうじゃない人のほうが多いのが普通だものね、会社って。確かに」

 手の甲に頬を乗せるようにしたさおりさんがまたひとつため息をつく。

「俺……」

 昨日から抑えてきたなにかが溢れ出てくる。

「しのちゃんがそばにいない生活、俺も耐えられそうにないです……あんなにかわいくて、俺のことを慕ってくれて、俺にとっても、すっごく、かけがえのない存在で……」

「うん……それは、しのも同じだと思う。お兄ちゃんのいない生活は考えられないよ、しのにも」

 あやうく涙が出そうになった。

「でも、さ」

 さおりさんが、ちょっと上を向いて続ける。

「なにもかもが確定しちゃったわけじゃないでしょ?タイミングの問題かもしれないし。それに、もし異動は当面なくなったとしても、お休み取って行き来することも、なんなら画面通話もできるじゃない」

 にこ、と笑うさおりさんの口許。いつもならその、愛らしい歯並びやちょっとした唾液の湿り気も見逃さないけれども、さすがに今そんな気分にはなれない。

「いちばん大切なのは二人の気持ち、だもの。大丈夫、宮古島では、私がいろいろフォローしておくから。しのが寂しくならないように、お兄ちゃんのことをずっと慕っているようにする。というか、しのは、うん、大丈夫だよ。お兄ちゃんのことが大好きで大好きでしかたないんだもの。私より優先順位上だよいまは」

「まさか」

「ほんと。私が夕ご飯作ろうとするじゃない?たまには自分の好きなものを食べたいって思うから、鶏のささみであっさりカレーにしようかな、って準備してたらしのが来て『だめ、お兄ちゃんは、チキンカレーはぜったいもも肉だ、って言ってたよ』だって。私が作るご飯、お兄ちゃんにおすそ分けする前提なのよね」

 さおりさんは笑わせるつもりで言ったんだろう。だから俺も呆れたような笑顔を作ろうとした。けど、左右で頬のひきつり具合がアンバランスな表情ができあがっただけだ。

「次、お兄ちゃんのお休みっていつ?」

「土曜です」

「そう……お兄ちゃん、しのをどこかデートに連れて行ってあげて。少しでもたくさん、お兄ちゃんとの楽しい思い出を作って、宮古島でお兄ちゃんを待っている間、その思い出話で寂しさを紛らわせてやりたいの」

「はい、俺もそのつもりでした。そのときに、異動が延びたこともしのちゃんに伝えます」

 さおりさんがやさしく笑った。



 春が早めにやってきたかのように暖かい土曜日になった。メロン味のソフトクリームを舐めるしのちゃんの鼻頭は汗でうっすらと湿っている。俺が舐めるミルクコーヒー色のソフトクリームも、もたもたしていると溶けて垂れ落ちてしまいそうだ。
 廃止された地方競馬場跡に新しく建てられた広い公園は、そこをかすめるように走る高速道路のサービスエリアと連絡通路で結ばれている。SA内の施設を高速に乗らずに利用できるので、わざわざ電車とバスを乗り継いでやってきてSAグルメを堪能する人も多い。混んだ路線バスの中でもみくちゃにされながら俺にしがみつき、ときどき目が合うと抗議するかのように睨んできたしのちゃんは、SAの中央にずらりと並んだ店舗の看板に大好きなメロンの味がするソフトクリームを見つけてすっかりご機嫌になった。握っている俺の手を引っ張るようにして店舗の前へ行き、さっきの不服顔とは打って変わった笑顔で、にへー、と俺を見上げるしのちゃんとの間に言葉はいらない。すみません、メロンソフトとコーヒーソフトをひとつずつ、コーンでください。スピニングバードキックが決まった春麗みたいにピースサインを高々と上げて「やったー」と喜ぶしのちゃんを見た店員さんの顔もほころんでいる。たぶん俺たちは仲のいい親子のように見えただろう。
 公園に下り、背もたれが緩やかなアールを描いている木製のベンチに並んで腰掛け、けっこう味の濃いソフトクリームを舐める。コーヒー味のソフトやアイスって「なんちゃって」な味、コーヒーガムと同じような味しかしないものが多いけれど、このソフトはしっかりコーヒーの味がして、ミックスしてあるミルクもたぶん本物の牛乳だ。

「あ兄ちゃん、と・く・べ・つ・に、あたしのメロンソフト、ちょっとだけあげる」


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