医師テレスポロス-7
「女。 あなたの初めてのセックスと、人の解剖をさせてあげる。無理なら、このまま持って帰る」
最初のことだけをするとか、できないことはわかる。目撃者を残してはおけない。こんなことがバレたら、姉ちゃんにどれほど殴られることか。
でも、最後までするのはもっと犯罪だった。
≪じゃあ、今まで解剖してきた百以上の動物たちは、犯罪ではないのか≫
その正当性は、ひとつの犠牲のおかげで、今後の何百、何千が救われていく、ということにある。
そう、先生に教えられていた。
「開けて」僕は腹を決めた。≪初めてのセックス≫ そう思うと股間が痛くなってくる。
先生は、呪文を唱えながら何重にも巻きつけた紐をほどく。
僕はドキドキしながらそれを見守った。初めて聞く呪文に頭がぼっとしてくる。
ドキドキのせいか、呪文の副作用に当てられたのか、目が回りそうだ。
「手伝って」意識のない体は重い。ふたりで実験台の上に乗せた。
女は裸で、軽く胸を上下させて眠っている。
「さあ、お好きにどうぞ」
スタートの合図のように、服を脱ぎすて、乳房に襲い掛かる。
先生のと違って、小ぶりで、硬い。飛び出してきた乳首にかみつく。
僕の股間の硬いものを。女の膝にこすりつけた。
それから、うっすらと毛の生えた下半身を広げる。
ろうそくを近づけ、まだ図版でしか見たことのない器官をさぐる。
そして、我慢できずに突っ込んだ。硬い感触とわずかな出血。
「先生？」
「生娘だったのね、おめでとう」先生が微笑んだ。
少し落ち着いてくると、ゆっくり動かして、感触を楽しむ。
先生は横で嬉しそうに見ていた。
しばらくして腰を震わせる。
「イッちゃったの、よかったわね。若いのに、もういいの」
それで、もう一回入れなおす。女は少し意識が戻ったのか、うごめき、息を荒げていく。
大きく動く力はないようだが、あえぎ、唸ることはできた。
「先生、寝たきりより、こっちのほうもいいね」
「生きて動いているということは、互いの性欲を交換し合えると言うことです。もっと注いでごらんなさい」
それならと、うつぶせにさせて、動物のような交わりを試した。
後ろから先生が僕に抱きついてくると、僕のお尻に腰を打ち付けてくる。その勢いで女の中に深く突っ込んだ。
僕が終わってもまだ打ち付けてきた。
「先生、僕満足できました」それでようやく離してくれた。
「お楽しみの次は勉強よ」 メスやハサミ、のこぎりの入ったケースを開いた。
僕はうつむきに戻した女の下腹部をじっと見つめ、メスを入れる。
女が身じろいだ。
記念すべき最初はこれだ。丁寧に切り分け、アルコールの入った広口瓶に、子宮を入れた。
≪次は何がいい≫ 肝臓、腎臓と切り分けていく。図版なんかとは比べ物にならない本物の迫力に震える。
臓器も手の中で震えた。温かいそれを、アルコールの中に落とす。
内蔵が終われば、足、腕とはずしていく。
先生が立ち上がった。
「時間だわ。テレス、今、切り分けたものも、おまえの腕が上がれば、生きてつなげられるようになるかもしれない。そうすれば、犠牲は犠牲ではなくなるのよ」呪文を唱えた。
僕の目から曇りが取れていった。「そんなことが僕にもできるんですか」
「そのためには、必死に励みなさい」
先生は笑って出て行きかけ、振り返った。
「魔女からの最後の勉強だよ。 どんなものにも見返りが必要なんだよ」
出て行き、雨の音だけが残った。
僕は振り返り、解剖を終わらせてしまおうと、ろうそくの火を近づけ、女の顔を見た。
恥ずかしいことに、さんざん抱いていながら、今まで体しか見ていなかったことに気が付いたのだ。
腹を開いた美しい体。乳房もまだ切らずに残っている。その上にかわいい‥ 姉ちゃんの顔があった。
ろうそくを落とした。
暗闇
でも一瞬で十分だった。
≪姉ちゃん≫
魔女め、何が見返りだ
そのあとのしばらくのことは、あまり憶えていない。
ただ、すべてを切り分け、瓶に入れて密封した。
最後の『生きてつなげられるかもしれない』という言葉にすがった。
すがりながらも、あの魔女を呪いつづけた。
たしかにあの魔女の三年間を搾取したことは間違いない。だからといって姉ちゃんの命と引き換えとは大きすぎた。
姉ちゃんと二人の秘密の家は、他人が入れないように封鎖した。
雨の中、森を出る。
必ず見つけ出してやる、そして、つなぐ方法を聞く、そして殺す。
僕が冷静に考えられるようになったのは何年もしてからだった。あれは、私の願いに対するみかえりなんだと。
私が最後にあんなことを願わなかったらどうなっていたかを考えるのは無意味だ。
それ以来、いつか姉ちゃんをつなげられる日が来るようにと、研究を続けた。―――