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ある熟女の日々
【熟女/人妻 官能小説】

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満室-1

 年度末で転勤の季節のせいか、社宅では引っ越しが続いている。今日も朝から外が騒々しい。引っ越しが2件重なっているようだ。違う会社のトラックが2台とまっていて、荷物を抱えたそれぞれの作業員たちが社宅の建物を出入りしている。そんな様子を眺めながら、狭いベランダで洗濯物を干していると電話がかかってくる。

 「あ、義姉さん? 今日もいいよね? 今から行くから待ってて」

 そう言って電話を切ろうとする義弟を慌てて止める。

 「ちょっと待って。今日は引っ越しがいっぱいあって人の出入りが激しいから…」
 「あ、そうなの? 外が騒がしい方が義姉さんも安心して騒げるんじゃない?」
 「もう、そんなことばっかり言って…」
 「まあ、義姉さんが変に疑われたりしちゃあ、オレも困るからね…。じゃあ、義姉さん、○○町あたりで逢わない?」

 疑われるような原因をつくっていることなど素知らぬように、義弟が歓楽街の名前を挙げる。ここから駅まで出ていって、電車に乗って25分くらいのところだ。思案していると義弟がしびれを切らしたようだ。

 「なに黙ってるのさ。やっぱり義姉さんのところに行くよ」
 「わかったわよ。○○町に行けばいいんでしょ」
 「さすが義姉さん、その気になってくれてうれしいよ。って言うか、オレから電話がかかってくるの待ってたんでしょ?」

 (『その気』になった訳ではなく、義弟に押しかけられるよりはマシと思っただけじゃないの…)と心の中で言い訳している。

 「でも、まだお洗濯の途中だからすぐには出られないわよ」
 「ああ、そうか。義姉さん、昨日も派手にシーツを濡らしていたものね」
 「何言ってるのよ、あ…」

 (アンタの方がシーツを汚していたんでしょ…。わたしの股にむしゃぶりついて性器をなめまわしたり、指をアソコに出し入れしてよろこんで。濡らした顔やら手やら、果ては自分のアレまでシーツで拭っていたじゃないの…)などと言いたいところだったが、そんな下卑た話をしているわけにもいかない。

 洗濯が一段落して、シーツを外側の物干し竿にかけ終わり、〇〇町に向かって部屋を出る。行き来する作業員たちを体をかわしてやり過ごしながら階段を下りていき外に出る。駅に着くと前の電車が発車したばかり。ため息をつく自分に人知れず顔を赤らめる。

 ○○町の最寄り駅でおりると義弟が待っている。

 わたしが視野に入るなり『義姉さん!』とでも叫ぶのではないかと心配したガ、義弟も場所柄をわきまえているようで、軽く手で合図しながら静かに近づいてくる。

 「やっぱりすごいね、○○町は。義姉さんみたいな綺麗な人が何人も降りていったよ」
 「はやくそういう人を見つけなさいよ。わたしなんか相手にしてないで」
 「雨が降りそうだね。早く行こう」

 本心ではないとでも見下しているのか、こちらの説教めいたセリフには応答しないまま、義弟は手をつないでこようとするが、(それはダメ…)と遠慮してもらう。義弟は苦笑しながら少し先を歩いて、ホテルが立ち並ぶ路地へと歩いていく。義弟はホテルの様子を伺いながら歩いていくが、『満室』という表示が続いている。

 「なんなんだろうね、今日は。天気のせいなのかな? それにしても、まったくどいつもこいつも…」

 自分のことを棚に上げて愚痴をこぼしている。こちらとしても早くどこかに落ち着いてしまいたい。

 「なんだよ、ここも『満室』かよ…」
 「えー?」

 思わず反応してしまう。すると義弟がこちらを向いてニヤっと笑う。

 「なによ? どうしたの?」
 「義姉さん、いま、ここも『満室』でガッカリしたでしょ?」
 「ガッカリなんかしてないわよ。このままおとなしく家に帰りなさい、ってことじゃないの?」
 「いいよいいよ、無理してそんなこと言わないで。わかってますから。ホテルはまだまだありますから」

 実はそんなことはこちらも知っている。OL時代に何度も訪れた○○町。(そこの角を曲がった路地沿いには空いてるホテルもあるわよ)などとは言えないところがもどかしい。義弟はそんなことは知らないと見え、路地に入らないで歩いてきた道をそのまま進んでいくから、仕方なくついていく。どうせあのホテルも『満室』だろう。

 「チェッ。やっぱりダメか」

 案の定『満室』のようだ。路地と言っても○○町のメインストリートだから、ホテルもそれなりに綺麗で人気もあるのだろう。

 「昼間からこんなところいつまでも歩いていたくないわ」

 カップルと立て続けにすれ違った頃合いを見計らってそう言うと、通りを折れて路地に入ってみる。

 「ふーん…。こんな路地もあるんだね、何だか質屋でもありそうだな」

 義弟はこちらの思惑には気づかずに素直に感心しているようできょろきょろと辺りを見回している。(そうなのよ、質屋がもう少し奥にあるのよね…)などと、おかしなところで義弟の感覚に感心してしまう。

 「あっ! 空いてるよ! ねえさ…!」

 義弟が笑顔を浮かべている。『義姉さん!』と叫びそうになったのは、どうにかこらえたようだ。

 (まだあったのね、ここ…)

 白いはずのコンクリートの壁がほとんど黒い染みで覆われている。湿気まみれの小汚いホテルとでも言おうか。昼に見たことはなかったから気付かなかったが、外見もここまで薄汚れていたのか。けばけばしいワインレッド色にホテルの名前を白く抜いた看板も以前のまま。安い料金だけが売りのようなホテルだったが、そこだけはしっかり変わったようで、ガムテープを上から貼ってマジックで金額が殴り書きされている。

 そんなことを思いながら、初めて来たかのように、義弟の後について門をくぐっていく。数時間が経って、フロントに延長をコールすると『はい、ごゆっくりどーぞ』と聞き覚えのある老婆の声がした。


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