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銀の羊の数え歌
【純愛 恋愛小説】

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銀の羊の数え歌−13−-4

チンッという音の後にエレベーターのドアがゆっくりとひらき、二人で中へ乗り込む。
ドアは、再び、ゆっくりとしまった。
「柊さんのね・・・」
と唐突に畑野さんは言った。
「柊さん、お父さんいないのよ」
「母子家庭?」
「ええ。そう」
畑野さんは小さく頷いた。
「でもお母様の方も、なかなか簡単に休みをとれる仕事じゃなくてね。だから、ずっと柊さんはあの寮に預けられていたの」
そこで畑野さんはいったん言葉を切ると、そっと僕の顔に視線を向けてきた。真剣な表情だ。何を言い出すかと緊張した瞬間、エレベーターが止まり、ドアが重苦しい音を立ててあいた。
「牧野君にも、お願いしておくわ」
畑野さんが再び口をひらいたのは、一時間前にも歩いた廊下を進みながらのことだった。 「え、なにをですか?」
ポケットに両手を突っ込んで、彼女の隣りを歩きながら僕はきいた。
「これからも、時間のある時でいいから彼女の顔を見にきてあげてもらいたいの。
もちろん、牧野君も自分のお仕事があるから無理はしないで。ただ、休みの日に今日みたいにちょっとでいいから。・・・駄目かしら?」
「いいですよ。きます」
別に断る理由なんてない。僕は頷いた。
畑野さんは心からホッとしたように微笑むと、ありがとう、と言った。
「お母様へは私から話しておくわ。そんな不安そうな顔しないで大丈夫よ。私だってちゃんと時間のある時には足を運ぶつもりなんだから」
畑野さんは僕を見上げるなり気を使ってそう言ってくれたのだが、僕は別に不安でそんな顔をしたわけではなかった。ただ、ちょっと腑に落ちなかったのだ。
何故、畑野さんはそうまでして僕を柊由良の元へ連れていきたがるのだろう。研修を終えた日、今日のお見舞いのことにしたってそうだ。僕がここへこなければならない必要性なんて、どこにもないはずなのに。
けれど、僕はそのことについて畑野さんにきくことはしなかった。とてもききたいことだったのに、何故か、きけなかった。


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