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午前零時のイブ
【ファンタジー 官能小説】

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午前零時のイブ-9

「この子たちはふたりとも大噓つきでございます」母親が叫びます。「ランもおりました。一番多くのプレゼントをもらっていました」
「うそよ、あなたたちが悪いのよ、カリスにも横取りされたわ」下姉がヒステリーを起こして叫びます。
三人がホールのまんなかで取っ組み合いをはじめました。
「何とも愉快だ」王子が笑います。「さあ、だれが一番悪い」
「どうかやめさせてくださいませ。こんなことをしてもだれもが傷つくだけでございます。どうかお怒りにならないでください。私だけで充分ではありませんか」
「そんなことで怒りが収まると思うのか。私の楽しみを奪ったのだぞ」
「こんなにはずかしめなくても、ただ美しさを求めるなら大姉をお選びください。処女がいいだけなら下姉がいます。一晩お楽しみになればよろしいでしょう」
「お前には何がある」
「私には心しかありません」
「たしかに、それだけのようだな」あざけるように見返します。
「では、継母がしたように私の服をはぎ取ればいいのです。どうせ死ぬ身でございます、気のすむまでこのホールで辱めればいいのです」
これでどうだとばかりに、王子の顔を叩きました。
衛兵たちが慌てて取り押さえます。
恐ろしい所業に周りはこおりついていました。どれほどの怒りが周りの者にまで飛んでくるかわかりません。
静かな中に12時を知らせる鐘の最初の音がゆっくり鳴り響きました。
「こいつの首を12時の鐘が鳴り終わったときに切り落とせ」王子が叫びます。「どうだ、それで明日となる。お前の心は癒されるのだろう」
イブは床に腹ばいにさせられ、首元に斧を持った衛兵が立ちました。
王子が怒りに鼻息を荒くしてイブの周りをうろつきました。その間に幾度もの鐘が鳴ります。その音に興奮が収まっていきました。ここにいるのは、あとは死ぬだけの女なのです。ホールには今までの賑やかさはなく、皆が黙って様子を伺っていました。
「最後の言葉を聞いてやろう。だが命乞いはできぬぞ」このままでは自分ひとりが悪者になるような気がしたのでしょう。
「王子さまは処女しか知らないのでございますね。なるほど、わかりました。二夜目には、どのお嬢様も処女ではありませんものね」
「黙れ」
「まあ、聞いてくださると言ったではありませんか。
もし王子様が処女しかお知りでないのなら、こんな不幸なことはありません。 私もそうするおつもりでございましたか? 最初の花を摘んで捨ててしまおうと」
胸元の押しつぶされたバラの頭をちぎりとって落としました。
「私の首も同じようになるのでございますね。今の私であっても、処女であったとしても結果は同じだったのですね。
でも王子様、女が喜びを覚えるのは最初からではございません。幾度かの中でつちかわれていくのでございます。そして、それは殿方からの扱いで大きく変わるのです。それが知れただけ、私は幸運だったのかもしれません」
だれかが「10」とつぶやきます。遠くで鳴る鐘の数です。
「幸運だと、体を汚されてそれで幸運なのか」
「王子様がお抱きになった乙女たちは、汚されて不幸になったのでしょうか」
「私が抱いて、どうして汚れるというのだ」
「では、あなた様は処女で無き者を、汚れているとは思いにならないのですね。つまり自分が一番に抱けなかったことが悔しいだけなのですね」
「そんなことは‥  うるさい」
「まあ、かわいい。わたくしはもう王子様には憧れておりません。憧れはあなた様へのいつくしみに変わるのでございます」
かすかに「11」
「いつくしみだと、王子は皆に欲されている。選ぶのは私だ」
「そうでございます。『王子様』は欲されている。では、『あなた』さまは何を欲すのですか」
皆が壇上を見ています。衛兵が斧を振りかぶり用意をしました。
「その愛を、お知りにはなりたくないのですか」
12、最後の鐘が鳴り響きました。
ホールは不気味に静かなままです。


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