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午前零時のイブ
【ファンタジー 官能小説】

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午前零時のイブ-6

「でも着ていく服がありません」
「今着ているのはなんだ」
「これはよそ行き用のシュミーズです」
「それでいい。いつもの格好でいいのだよ。では、庭に行って花を一輪とっておいで」
摘んできた薔薇をシュミーズの胸元に縫い付けました。
それからどこから出したのか、ベルベットの外套を肩にかけてくれました。
コルセットもドロワースもドレスも何も着ていません。
宝石もなければ朝に髪をとかしただけでした。
靴は、履いてはいますが、底に穴が開きかけています。
つまり、ほとんど裸です。
玄関を出ると辻馬車が待っていました。
「私が呼んでおいたんだよ」
「こんな格好でお城になんかいけません」
「大丈夫あなたは私が乞食だと思っているのでしょう。だが本当は魔法使いなのです。だから安心して行けばいい。あなたが自信さえもてば、道は開けるのです」魔法使いは本当の美しい姿を現しました。
それはまるで神のように光輝き、イブに光の粒を落としました。
「どうかお名前を」
「魔術導師AREN」
「分かりましたアレン様」シュミーズが光に映えて金色に輝きます。
魔法使いの言うことです。≪きっとこの馬車は六頭立ての真っ白な馬車になるのでしょう。金具は全て金に輝き、御者と従者が前と後ろに乗るのです。 私は宝石で飾られた髪を高く結い上げ、黄金色に輝くドレスのスカートを大きく広げ、馬車から降り立つの≫ それが魔法というやつです。
「ただし、夜の12時に気を付けるんだよ」魔法使いが注意をして、送り出しました。
城からは楽しげな音楽が聞こえてきます。舞踏会も終盤に差し掛かり、最後のアピールをと皆が競っています。
イブはしとやかに、でも決然と城の中に進みました。
中に入ると執事が「コートを」と震える手を伸ばしてきました。
≪何を緊張しているの≫ おかしくて、笑いそうになるのを抑えます。
コートをとると執事は絶句して、イブを見ます。
≪この美しさに目が離せないのね≫
ちょうど曲の切れ間でした。たくさんの人のいるホールを見下ろす階段の上からゆっくりと降りて行きます。
しゃべっていた人たちが会話を止めて見上げてきました。
人ごみの中に降りても、近くの人たちは道を開け、距離を保ちながら目が離せないでいます。
女性の中には驚きに髪を白くし、氷のように冷たくなって失神してしまう、ばかな者まで出てきました。
ただひとり、インドの女王様なのでしょうか、気品に満ちた姫が、「あなたはそのままで美しいですよ」声をかけてくださいました。それでさらに自信を持ちました。
胸を張って歩くと、カーテンを開くように、客たちの美しいドレスが左右に分かれていきます。
王子の前まで行くと優雅におじぎをしました。
静まり返ったホールに大笑いが響きました。それは今までつまらなそうに舞踏会を見ていた王子の声でした。


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