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麻薬
【女性向け 官能小説】

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麻薬 LastScene-1

あたしの前に、汗をかいたグラスが置かれる。
「高原さんと飲めるなんて嬉しいなぁ。いつも断られてたから」
「ごめんなさい。忙しくて」
「いいですよ。今日こうして会えましたから」
グラスを合わせる。
目の前にいる男は、あたしの仕事先で声をかけて来た人だ。あたしより4つ上。食品関係の仕事らしい。
彼は「澤田さん」と言う。澤田さんに告白されて、あたしはのらりくらりとかわして来た。
誰かに想われている状態は気分が良かった。特に言えない想いを抱えているあたしにとっては……
二人で会うのには気乗りしなかった。だが、あっさり振ってしまうのも惜しくなった。だから、切らずに連絡を取っていたのだ。
それが、あんなに大輔を怒らせることになった。
胸が疼く。
疼くのは、胸だけじゃない。あたしの子宮もだ。
あれから一週間。
あたし達は、お互いを避けていた。話もしない、目も合わせない。
大輔が、恋しかった。
でも、勇気が出なかった。狡いことをした、罰だ。
「高原さん?気分でも悪いんですか?」
物思いから我に返る。
「あ…すいません。大丈夫です。……ここのお店、いい感じですね。落ち着いてて、大人な感じ」
大輔となら、チェーン居酒屋でも充分楽しい。
お互いそんなに高給取りじゃないから、いつも安くすませる。
それを不満に思ったことなど一度もない。
「僕の会社から、食品を買ってもらってるんですよ」
「へぇ……」
自慢かよ。
心の中で舌を出した。
大輔は自慢なんかしないけどね。
「この、茄子のグラタンって美味しそう。頼んでいいですか?」
「ええ、どうぞ。でも、僕、茄子は食えないんで高原さんが召し上がって下さい」
好き嫌い……大輔にはないな。いつも何でも美味しそうに食べるもの。
見てて気持ちいいくらい…
……あたし、一体何考えてるの。
知らず知らず、澤田さんと大輔を比べてる。
大輔のことばかり考えてる……。
だから、他の人と会うのは嫌なんだ。
大輔を思い出すから………

「ごちそうさまでした。ありがとうございます、奢ってもらっちゃって」
店の外に出ると、霧雨が降っていた。
「いや、いいよ。…楽しかった」
「はい…あたしも」
嘘だけど。
「じゃあ、これで…」
さっさと帰りたくて、あたしから別れの言葉を出す。
「高原さん」
「はい?」
「この間の返事、聞きたいんだ」
「あ……」
嫌なことを切り出された。延ばし延ばしにしてたのに。
「僕のこと、嫌いかな」
「いえ…」
好きでもないけど。
「好きな人でもいる?」

好きな人…………
「あたし……」
逢いたい。

「高原さん…」
澤田さんがあたしの肩を掴み、抱き寄せた。
大輔の顔が浮かんだ。
この間、怒りをあらわにした大輔…

もし・・・本当に妬いてたとしたら?酔って言う時の「好きだ」が真実だとしたら?
あたしと同じように、この関係が壊れるのが、怖いだけだとしたら…?

逢いに行こう。

「あたし……澤田さんとは付き合えません。好きな人が、きっとあたしを待ってるの。ごめんなさい、あたし帰ります!」
澤田さんの腕から抜け出し、ぺこっと頭を下げ、あたしは霧雨の中を走り出した。
「高原さん!!」
呼び止める声に振り向いた。
「ありがとう!」
あたしも、もし大輔にフラれたら「ありがとう」って言えるだろうか?


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