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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(3)-1

それからしばらく幸一郎とエドが談笑している様子を護がぼーっと眺めているうちにクリスは食事の準備を済ませ護達をダイニングに呼んだ。
クリスの綺麗なプラチナブロンドの髪と瑠璃色をした瞳を見る限り一見日本料理を作る事など想像もつかないが、多彩な才能と努力を怠らない性格、そして幸一郎に仕えているという自尊心からのものであろうかクリスの料理の腕はプロ並でありどんな料理も作ってしまうのだった。
因みに本日の献立は米沢牛を使ったすき焼きである。
最初のうちはとても穏やかな食事風景だったが、突如訪れた災難は一本の日本酒から始まったのだった。
「そう言えばクリス。頼んでおいたものは買ってきてくれたかい」
幸一郎がクリスに尋ねるとクリスは「はい」と答えキッチンへ足を運ぶと『大吟醸美少年白眉』と銘打たれた一升瓶を見せたのだった。
そしてその一升瓶を見て嬉しそうにしている幸一郎とは別にクリスは一升瓶に入った酒を手際よく徳利に移すとぐい呑と一緒にそれを幸一郎のところへ運んできた。
こうして幸一郎とクリスが酌を始めた時点では特に問題はなかったのだが事態はクリスが酒を飲み始めてから暫くして急転したのだ。
しかもその時クリスの主である幸一郎は酔いが回ったのか既に寝てしまっておりクリスの暴走を止められる者は誰もいなくなってしまった。
「ク、クリス…ちょーっと酒を飲むペースが速すぎなんじゃないか…」
恐る恐るクリスを咎める護をクリスは立て膝をつき赤い顔で睨みつける。その眼鏡越しから睨むクリスの眼は既に据わっており、いつもなら美しく感じる瑠璃色の瞳は濁って見えたのだった。
「護しゃん、おはにゃしがあります。そこに正座なしゃい」
只ならぬオーラを放つ酔っ払いのクリスに身の危険を感じた護はクリスの指示に素直に従うと、それに満足したのかクリスは酒に酔い赤い顔をしながら笑顔で説教を始めたのだった。
その内容たるやサンタの仕事のものから始まり、幸一郎が常に護を心配している事、護のトナカイであるエドの躾についての事、果ては学校での成績の事や日常の生活態度の事まで説教されたのだった。
しかも質の悪いことにクリスは酔っ払っているのに言う事が一々正論なのだ。これには流石の護も辟易してしまい表情にも疲れが出てしまっていた。
そして護が小さくため息をつくとクリスは「ちゃんと聞いているのれすかっ!!」と言いながらテーブルを叩くと護を睨み更に熱の入った説教をするのだった。
例え人の姿をしているとはいえ、トナカイに説教をされている今の自分を護は呪わしく思うのだったのだ。30分程延々とクリスの説教を正座で聞かされていた護だったが、その様子を見かねたエドがやれやれといった顔でクリスと護の間に入ってきたのだったが、エドも酔っているのか顔が赤かった。
「なあ、クリスよぉ。いくらお前が幸一郎様のトナカイでも俺のマスターにそこまで説教する義務はねーんじゃねーのか」
エドはテーブルの上でクリスに向かってあぐらをかいて座ると、近くにあったぐい呑を引き寄せ中に残っている日本酒を飲み始めた。
「エド、何を言ってるんれすか!私は護しゃんの事を考えれ言ってるのれす!そもそも貴方がしゃんと護しゃんのサポートをしれれば問題はなかったのれす」
酔った勢いでクリスがテーブルをドンッと叩くとその反動でテーブルに座っていたエドが抱えていたぐい呑と一緒に少しだけ宙に浮いたのだったが、当のエドはそんな事に動揺する気配も見せずそのまま酒を飲みながらニヤニヤと怪しい笑みを見せながらクリスを見る。
「ホントにそれだけかぁ?まだ何か隠してそうだなぁ。なんか隠し事の匂いがプンプンプ〜ンって匂うぜぇ」
クリスはエドの言葉に動揺して一言だけ否定をすると沈黙してしまった。
そんなクリスの様子を見てけらけらと笑いながらエドが珍妙なリズムで歌っており、そこから更に追い討ちをかけるのだった。
「そういや、さっきからお前さんが護に要求してる事を聞いてたけど、どう判断してもお前さんの好みを護に押し付けてるよなぁ。ん?んん?」
そう言うとエドは調子に乗り、厭らしい目つきで動揺しまくってるクリスの顔に自分の顔を近づけるとクリスの隠し事は分かってると言わんばかりに更に笑い出したのだった。


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