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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(2)-3

貴菜子はそんな護を見ながら「ふわぁ〜、すごいとこに住んでるんだねぇ」と感嘆の声を上げてから自分の仕事を思い出し慌てて護の空のカップを下げるとコーヒーのお代わりを持ってくる為にカウンターへ戻っていった。
「護さん、今日はなんかいつもと雰囲気が違う…」
護と貴菜子の遣り取りを大人しく見ていた秀人がストローを齧りながらジト目で睨んでいる。
「おやおや、秀人たんは一体どっちにやきもちを妬いてるんだかねぇ。クククッ」
「うるさい!お前には関係ないだろ、このバカトナカイッ!!あと、たん付けするなぁ」
秀人はエドの挑発にまんまと引っ掛り顔を真っ赤にして声を荒げてしまった。
「エド、お前もいい加減にしておけ。それから秀人、俺がいつもと違うって何がだ?」
護はエドを捕まえコートのポケットに押し込むと不機嫌そうな顔をしてる秀人を見た。
「う〜ん、いつもの護さんだったらああいった場合、大体無表情か少し嫌そうな顔をしてるんだけど今日は何か表情が柔らかいんだよね。もしかして12月だから仕事モード入っちゃってるのかな?」
「そっか……」
グラスに入ってるストローを指で弄びながら護を観察してる秀人に護は一言だけ答えると彼の洞察力に感心したのだった。
それからすぐ後に貴菜子がお代わりのコーヒーを持ってきて、護と秀人は他愛もない会話をしばらくして店を出た。
「秀人、今日はサンキュー。お陰で昼飯代が浮いたよ」
「いいって、護さんが貧乏なのは良く知ってるつもりだからね。それに僕は護さんの事を兄さんみたいに……ううん、なんでもない!それじゃ、またね〜」
秀人は笑顔だったが何か慌てた様子で大きく手を振りながら護の前から走り去っていった。
「なんだあいつ?変な奴だな…」
護は秀人の姿が見えなくなると家に帰る為に商店街を歩きだした。

秀人と別れてから暫くして、護は自宅であるマンションの一室のドアの前にいた。
そして、ドアの鍵穴に鍵を差込み開錠しようとしたところ異変に気付いたのだった。
護は出かける時はいつも鍵をかけて出かける筈なのに帰ってきたばかりの自宅の鍵は開いていたのだ。
「こんな事するのはクリスか…」
護は一人呟くと鍵穴に差し込んだ鍵を抜き取りドアを開け玄関に入った。
「あ、護さんおかえりなさい」
玄関に入るなり出迎えたのは家の鍵を開けた張本人であるクリスであった。
艶やかなプラチナブロンドの髪を揺らし微笑むクリスに護はため息を吐くと腕を組み少し困った様な顔をする。
「あのなクリス。いくらお前がトナカイで開錠の能力があっても俺の家の鍵を勝手に開けて入り込まないでくれないか…」
「ですが久々に護さんの家を訪ねたら家の鍵がかかっておりましたので、やはりトナカイとしては訪ねた家の鍵がかかっていれば開けたくなるじゃありませんか」
ニコニコと悪びれた様子もなくクリスが楽しそうに言うと護は心底呆れたといった表情をしたのだった。
「それはどこのコソ泥だよ。で、爺さんも一緒なんだろ?」
護がクリスに尋ねるとクリスは「はい」と笑顔で答え護をリビングに行く様に促した。
「おお、護。やっと帰ってきおったか」
リビングに入るなりソファーで寛いでいた幸一郎が満面の笑顔で護を呼んだのに対し、護はやれやれといった感じで幸一郎の傍にいくとコートを脱ぎ隣に座った。
「爺さん、いきなりどうしたのさ。仕事の件で来たんだったらまだ時期が早いんじゃないの?」
「いやいや、今日はお前の顔を見に来ただけじゃよ」
「嘘付け。それだけじゃねーくせに」
苦笑する護はキッチンに目をやるとそこにはクリスが食事の準備をしていたのだった。
「大方、日本食が恋しくなって帰ってきたのと違うんじゃねーの」
「はははっ、まあ、それもあるが護の顔を見に来たのも事実じゃよ」
笑いながら護の肩を叩く幸一郎の言葉に裏を感じさせるものはなく護はその言葉を信じるしかなかった。
「幸一郎様、お久しぶりっス。相変わらず元気そうですねぇ」
幸一郎の笑い声に釣られた様にエドが護のコートのポケットから顔を出し馴れ馴れしく挨拶をすると、幸一郎もそれに合わせて砕けた様子でエドの挨拶に答えるのだった。


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