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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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混沌とした世界(後編)-3

「女伯爵エステルとの不戦協定は、ロンダール伯爵との不戦協定よりも慎重に検討すべきで問題でしょう。その見極めはゴーディエ男爵にお任せ致します」

フェルベーク伯爵領の4人の策謀家たちは、ゴーディエ男爵に一礼して密議の場から退室していった。

女伯爵エステルと不戦協定を結ぶ条件として、フェルベーク伯爵領からかつて女伯爵シャンリーが要求したように虐殺と統制のために協力して兵力を求められ応じれば、ブラウエル伯爵領の温存してきた兵士とバーデルの都の覇権を奪い合うことになりかねない。
バーデルの都を教祖ヴァルハザードの計画で、蛇神へ贄を捧げる巨大な祭壇の役目とするのが、ゴーディエ男爵の任務である。
フェルベーク伯爵領の内政官たちが、王都のジャクリーヌ婦人の人脈の貴族たちと交渉して、ゴーディエ男爵にフェルベーク伯爵領がこのまま独自の統治体制を維持するための財源として、バーデルの都の市場をブラウエル伯爵へ譲り、現在の奴隷市場の利権のみを守ろうとするだろう。女伯爵エステルと不戦協定を結んでも、フェルベーク伯爵領の内政官たちは、女伯爵エステルをブラウエル伯爵に討たせるために、裏工作を始める。
バーデルの都はブラウエル伯爵とロンダール伯爵と同盟を結んでいるゴーディエ男爵で分け合うことになる。
ゴーディエ男爵が教祖ヴァルハザードの任務を遂行すれば、ロンダール伯爵は同盟を破棄するのは間違いない。
女伯爵エステルが闇市が開かれている市場をバーデルの都の財源として、バルテット伯爵のように統治するには、闇市に集まった闇商人や盗賊たちを追い出し、代わりにパルタの都の小貴族や他の伯爵領、ベルツ伯爵領やリヒター伯爵領からの小貴族の受け入れが必要となる。
フェルベーク伯爵領の4人の策謀家の貴族たちは、戦が起きれば人のいなくなった市場から利益を得るために復興させる労力や資金を惜しみ、市場はブラウエル伯爵とジャクリーヌ婦人に譲る条件で、奴隷市場の利権を手放さないように王都の宮廷議会へ交渉するだろう。市場の復興は、ブラウエル伯爵に押しつける気なのだ。
女伯爵エステルはバーデルの都をどうするつもりなのか、女伯爵シャンリーと同様に虐殺で闇市場を解散させるつもりなら、フェルベーク伯爵領の4人の策謀家が予想した流れでバーデルの都から女伯爵エステルを排斥するブラウエル伯爵とゴーディエ男爵は戦い、王都の宮廷議会によって仲裁されるのを待つことになるだろう。
フェルベーク伯爵領の4人の策謀家の貴族たちは、女伯爵エステルは女伯爵シャンリーの後継者であり同じ方法でバーデルの都を統治すると予想している。
ゴーディエ男爵が女伯爵エステルと対立して、フェルベーク伯爵領から兵士を出兵しても、ブラウエル伯爵とジャクリーヌ婦人がバーデルの都へ武力介入してくると考え、ゴーディエ男爵が女伯爵エステルと同盟を結んでも、対立しても、どちらでも同じだという結論から、ゴーディエ男爵に一任、つまり自分たちはゴーディエ男爵に従っただけと責任転嫁できるようにしたというわけである。

(抜け目のない連中だ。バーデルの都をブラウエル伯爵が復興させて人が集まるようになった時期に異界の門を開くのが最も贄が得られるだろうが、それまで王は待ってはくれまい)

ゴーディエ男爵は、学者モンテサンドから策謀家の貴族たちの考え方を教えられている。最終的に王の独裁政治が始まれば、貴族は贄にされないために従うとわかっている。伯爵領のロンダール伯爵は異形の怪物となりつつある王に抵抗するか、服従を選ぶかは、バーデルの都を贄を捧げる巨大な祭壇にできるかで結果が変わる。
バーデルの都が崩壊して異界とつながれば、ロンダール伯爵でもどうにもできずに諦めて服従を選ぶだろう。
異界の門を開こうと動いているゴーディエ男爵に、直感が鋭いのかロンダール伯爵は近づいてきた。だが、まだ教祖ヴァルハザードの計画までは予想していない様子だった。

ターレン王国から遠く離れた大陸北方の大山脈にある神聖教団の本部、ハユウの都では教祖ヴァルハザードの復活が星詠みの占術により判明したので、対策が協議されていた。
賢者マキシミリアンの設立した神聖騎士団と聖騎士ミレイユに教祖ヴァルハザードの討伐を依頼すれば、ヴァルハザードの復活した場所がターレン王国であるため、ゼルキス王国とターレン王国の戦争の発端になりかねない。

「教祖復活の場所は王都トルネリカ」

神聖教団はターレン王国の地図を手に入れていた。レナードの他にも案内人を派遣して情報を集めていた。
星詠みの神官から報告を受けた大神官アゼルローゼは6人の星詠みの神官全員に確認すると、深いため息をついた。

「私も聖騎士ミレイユと共に、ヴァルハザードを再び滅ぼすために戦う運命のようです」
「アゼルローゼ様の身に何かあれば神聖教団の危機。ここは聖騎士ミレイユや賢マキシミリアンに任せて……」

神官長アデラの言葉を首を横へ振り、アゼルローゼはアデラに神聖教団を任せてハユウの都から離れると伝えた。
アデラは神官長だが、見た目は20代半ばに見える。大神官アゼルローゼも少女の姿である。
このふたりが教祖ヴァルハザードが滅びたあと、神聖教団を存続させてきた。

(聖騎士ミレイユやマキシミリアンに、ヴァルハザード様を滅ぼさせません。どれだけ私が、ヴァルハザード様の復活を待ち焦がれていたか。このハユウの都にいる者は誰も理解できないでしょう)

アゼルローゼは、教祖ヴァルハザードか神官を集めて作り出した失敗作の最後の生き残り。
アデラはアゼルローゼの忠実な下僕のヴァンピールである。

アゼルローゼは、ヴァルハザードが平原の帝国の宰相として実権を握り君臨し、皇帝の後見人である王妃ルォリーファに仕えているのが不満だった。
ヴァルハザードが生き血を啜り、ヴァンピールになりそこねた神官は何人も存在していた。王妃ルォリーファも、不完全なヴァンピールとなっていた。


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